第6章
間違いだらけの選択⑪
ニノが救急車で病院へ向かったのが夜の9時半を回った位。部屋の時計は既に11時半を過ぎたけど、ニノからの連絡はいまだに来ない。
おばさんは無事なんだろうか?楽しみにしていたニノとの二度目の温泉旅行だったけど、突然おばさんが救急搬送されてしまうという緊急事態に、正直それどころでは無くなってしまった。
ニノの親父さんはニノが子供の頃に他界したと言ってたから、今ここのオーナーと言われてる人はおばさんの再婚相手ということ。おばさんは確かに女将としてはかなりのベテランみたいだけど、この本館だけでもかなりの規模なのに、こことは別に別館3件も一人で切り盛りするのはどう考えても無理がある。
親父さんは海外のホテルが有るから、殆どおばさんに旅館は任せっきりだったって事だろう・・・。
従業員が言うみたいに、おばさんが倒れた原因が過労やストレスとなると、ニノが自分を責めてしまうのも当然のことなんだろう。
となると、このままおばさんが回復したとしても、引き続き今まで通り仕事に復帰させるというわけにもいかなくなるかも・・・
ニノもやっとモデルの仕事から夢だったシンガーソングライターへの扉が開けてくるかもしれないって大事な時なのに。
これからニノは、俺達は一体どうなっちゃうんだろう?一人で色んなことを考え始めると不安になってきた。
そんな時、ニノから預かったスマホにようやく連絡が入った。
「もしもし?おーのさん、俺です。」
「あ、ニノ?おばさんの容態は?無事なのか?」
「あ、うん。大事には至らなかった。」
「良かったぁ・・・」
「ゴメンね。おーのさん、せっかくの旅行だったのに・・・」
「おいらのことは気にするなよ。」
「過労からの突発的な心臓発作だったらしいんだ。今はお薬で落ち着いてるけど、今夜は心配だから俺はそっちに帰れませんけど。」
「そうか。うん、おばさんの傍に着いててあげなよ。」
「ホントにゴメンね。」
電話の向こうから今にも泣き出しそうなニノの声。
「バカだなぁ。謝んないでいいんだって。旅行なんてこれから何時だって出来るじゃん。」
「うっ、うん・・・」
「それじゃ、ニノもおばさんが落ち着いてるのなら少しは眠らないとダメだぞ?」
「うん・・・ありがと。また朝から連絡するね。」
「うん。じゃね・・・」
「おやすみなさい。」
「おやすみ・・・」
その時のニノの、この世の終わりみたいに元気のない声に、俺はちょっと心配になってしまった。おそらく今後の事を考えて不安になってるに違いない。
ニノを支えてあげなきゃ。俺なんかに出来る事は限られてるかもしんないけど、もしもニノがこのまま旅館に残って仕事を手伝わなきゃならなくなったら、その時は俺も覚悟を決めよう。
個展開催のビッグニュースが入ったところだけど、今はそれどころじゃない。ニノが大変な時だからこそ、俺が助けてあげなくちゃ駄目なんだ。
だって、俺はもう二度とニノのことを離さないと決めたんだもの。
つづく