
第6章
間違いだらけの選択③
「大野さん、おはよう。これニノのモデルデビュー第一弾が載ってる雑誌ですよ。」
「あっ、潤君なんか久し振り。へえ・・・これニノが載ってるんだ?」
俺は潤君からその本を差し出されて、受け取ろうとしたら、潤君はちょっと意地悪くニヤリと笑ってその手を引っ込めた。
「えっ・・・見せてよ?」
「その前に、ちょっと大野さんに聞きたいことが有るんだけど。」
「何?仕事のことか?」
「違います。ニノのことで・・・」
「あっ、ちょっとあっちで話そうか?」
仕事場じゃ奈緒ちゃんも山下君も居るからニノの事は話せない。俺は潤君にそう言って自宅のリビングに彼を通した。
「今お茶淹れるね。」
「大野さん、何時から?」
「ええっ?な、何が?」
「何がじゃないでしょ?ニノ、ここに帰ってないそうじゃん。」
「あっ・・・ニノから何も聞いて無かったの?」
「いや、本人からじゃなくてさ、ついこの前相葉さんから俺も聞いてビックリしてる。何時からそういう事になってるの?」
「うん・・・かれこれ3週間になるかなぁ。」
「もうさ、ニノがここんところ全然元気なくて、仕事になんないくらいなんだよ。」
「ニ、ニノに何か有ったの?」
「何か有ったのって、あなたの事に決まってるじゃない。ニノのこの一発目のグラビアの反響が凄くてさぁ、今後は俺がニノの専属のマネジメントするように言われてるんだよね。」
「せ、専属?」
「色んな所からニノへの問い合わせが出版社に殺到してるんだよ。」
「そ、そんなに凄いの?」
「まあ、ゆっくり見てよ。そこの付箋紙貼ってるページがニノの載ってるところだから。」
「う、うん。」
俺はちょっとドキドキしながらその雑誌を開いた。そこには、天使みたいに可愛いニノがふんわりと優しい笑顔で微笑んでいる。俺は思わず胸がキュンとなった。
「ニノ・・・」
「どう?なかなかイイでしょ?」
「こんな表情するんだな・・・」
「芸能プロダクションからもかなり問い合わせが入ってるんだ。彼、この分だと歌手デビューもまんざら夢じゃなくなるかもね。」
「ま、マジか。」
それは喜んであげるべきことなんだろうけど、俺からするとニノがどんどん遠い存在に思えてきて、なんか物凄く切なくなってきた。
「俺としてはプライベートなことに口を挟む気はないんだけどね、あんなに元気だったニノがカメラ向けられても自然に笑顔が出せなくなってる。仕事に支障を来すのはマズいよ。彼にとって今は大事な時だから、あなたとの喧嘩が原因だとしたらやっぱり俺もほっとけないでしょ。二人とも知ってる以上はさ。」
「おいらも・・・ずっと我慢して待ってんだよね。」
「どうして我慢なんかするのよ?好きなんでしょ?ってか、よくあなた3週間も我慢してるよ。俺だったらとっくに連れ戻してるけどな。」
「おいら、駄目なんだよね。ダメって言うか、苦手なんだよ。人の気持ちの裏側が分かんないんだよね。ニノが何に対して怒ってたのかすらずっと考えてるのにいまだに分かんないもん。」
「そんなの大野さんでなくても分かんないよ。分かってるのは本人だけじゃないの?」
「でもね、こんなおいらにもひとつだけ分かってることは、ニノって本当は凄く優しいイイヤツなんだってことなの。きっとおいらに言えない事情を一人で抱えて悩んでるんだと思う。」
「大野さんに言えない事情ってなんだろうね?」
「それが分かれば苦労しないよ。」
「あなたに余計な心配や迷惑を掛けたくないってことか。」
「うん。ニノはそういうヤツだよ。相葉君が説得して合わせてくれるって言ってたけど、あれからもう随分日も経つし、ニノはもう本当においらの顔も見たくないのかも。」
「それは考え過ぎでしょ。多分待ってたって向こうから来やしないよ。ニノってそういうところあるから。」
「え?」
「結構そういうところ頑固そうじゃん。素直じゃないっていうか。ニノだって我慢してるんだと思うよ。」
「んふふっ。確かにそうだね・・・」
「そうだ!いい事思い付きましたよ。」
「え?」
「フフフッ、いいから俺に任せてくれませんか?」
「マジで何なの?」
「大野さん、あなたこれから急病で倒れたことにしなよ。」
「ええっ?な、何で?」
「実はこの後、お昼からニノと次の仕事の事で打ち合わせするんですよ。」
「いいな。潤君はニノに仕事でも会えるんだから。」
「フフッ、いいからあなたこれから寝間着に着替えてちゃんとベッドで寝てて下さいよ。」
「おいら、どこも具合悪くないよ?」
「芝居ですよ。」
「へっ?」
「分かんない人ですね。あなたが急病で倒れたって聞いたら、ニノは飛んで帰って来るに決まってるでしょ。」
「えええっ?それって、ニノを騙すの?」
「騙すんじゃなくて、軽いお芝居ですよ。そうでもしないと二人とも本当にストレスで病気になっちゃいますよ。」
「そ、そんなことしてまた怒らせたりしないかな?」
「なに弱気な事言ってんですか?いいから俺の言う通りに寝てなさいよ。あなたニノに会いたいんでしょ?」
「そ、そりゃあ・・・」
「だったら善は急げだよ。遅くてもpm3時には姿現すだろうから、本当に寝ててよ?」
俺とニノの関係を修復しようとして、色々考えてくれるのは有難いけど、これ以上ニノを怒らせたりしたくないんだよな。
それは明らかにニノを騙そうという作戦なんだろう。俺はあまり気乗りしなかったけど、そのグラビアのニノを見てしまったら、もうどうしようもなく会いたさが募った。
つづく