真夜中の虹 13
「それじゃあ、これが契約書なんで一応会社規約に目を通してからこれにサインして・・・」
「あ、はい。」
数日後、櫻井さんから連絡を貰い、俺は再度会社を訪ねていた。どうやら俺は正式にここの会社に採用されたようだ。
「早速だけど、今日はこの後先日話した先方への面談へ僕と行って貰います。」
「はい。」
「簡単に仕事の説明をしておくね。」
「お願いします。」
「うん。それじゃあ、これがマネージメントを請け負う人の簡単な資料ね・・・」
そう言って櫻井さんは俺にA4サイズの資料を俺に手渡した。社名とイメージイラストが描かれた拍子を捲ると、そこには驚くべき内容が記されていた。何故なら、身に覚えが有り過ぎる人の写真とプロフィールが載っていたからだ。
「あ、あの・・・櫻井さん?もしかして僕がマネージメントする人ってこの人?」
「え?ああ、そうだけど。」
「そ、そうなんだ・・・」
なんてこった・・・その人物は紛れもなくあの大野さんだった。
「二宮君って、もしかして大野さんと面識有るの?」
「え・・・あ、まぁ・・・」
「なんだ、そうか・・・それでかぁ。」
「えっ?」
「あの人これまで何人もうちからマネージャー紹介してるのに要らないってとにかく頑固だったんだよ。だけどこの間ちょっとだけ君のことを話したらさ、是非連れて来てって珍しく言うもんだからさぁ。」
「そ、そうだったんだ。」
「それじゃあ、彼の事は僕が説明しなくても分かってるよね?」
「あ、いえ、俺顔見知りっていうだけで、あの人の事あまり知らないんです。」
「へぇ・・・最近知り合ったの?」
「はい。」
「それじゃ、クリエイティブデザイナ―って事は知ってる?」
「は、はい。それは聞いてます。」
「本人は欲の無い人だからあんまりガツガツ仕事を引き受ける人じゃないんだけど、彼の才能は世界にも認められてるくらい凄いんだよ。以前は俺がマネージメントしてあげてたんだけど、こっちも依頼が増えて来ちゃったもんで大野さん一人のお世話に掛かりっきりってわけにもいかなくなってね。それで、他のスタッフを何人か派遣したんだけど、どうもやる気が出なくなったみたいでさぁ・・・仕事も激減したみたいだし、そこに関しては流石に俺も責任感じちゃってるわけよ。だから、彼のサポートをちゃんとしてくれる人間を本気で探してたんだ。」
「そ、そうだったんですか。」
「うん。で、大野さんが珍しく前のめりに連れて来てとか言うから・・・これで謎が解けた。」
「謎?」
「きっと自分が知ってる人だったから安心したんだよ。あの人人見知りはしないんだけど、警戒心は人一倍だから。」
そ、そうかな?俺はそんな印象は一切抱かなかったけど。
「仕事としては主に身の回りのお世話、あと大野さんの仕事のスケジュール的な管理までお願い出来ればって思ってる。」
「いや、やっぱり出来ません。」
「え?何で?」
「よく考えてみたら俺、あの人に迷惑しか掛けてないんです。歓迎されるとはとても思えないです。」
「そんなことないよ。君の名前伝えたら少し驚いてはいたようだけど、連れて来てって即答だったもの。」
本当はもうこれ以上あの人には関わらない方が良いような気がするんだよな。
「でも・・・やっぱ無理です。」
「そうか・・・大野さんガッカリするだろうなぁ。せめて面談だけでも行ってみない?」
「ごめんなさい。」
「そうそう、いちばん大事なことを言ってなかったけど、この契約成立したら、彼のマネージャーの場合だとね、うちが支払ってる通常の5倍の年収は貰えることになるんだけど・・・」
「え?」
5,5倍?どうしてそれを先に・・・
「そこまで嫌だというものを無理矢理連れてってもアレだよなぁ・・・」
「ま、待って!行きます!是非やらせてください!」
「は?」
「大野さんのマネージャー、是非僕にやらせて下さい。」
「いいの?」
「勿論です。」
だって、通常の5倍でしょ?これ断る理由、何処にも無いよね?
つづく