真夜中の虹 15
「二宮・・・くん、だよね?」
「え・・・あ、はい。」
「俺の事は覚えてるよね?」
「あ、もちろん。」
「で?何してるの?」
「何って・・・散歩ですけど。」
「それは分かるけど、何でおたくが小太郎の散歩なんかしてるの?」
「そ、それは・・・」
マズいな。俺がマネージャーになった事は後で大野さんから説明してもらおうと思ってたのに。
「あの、実は俺今日から大野さんのところでお仕事することになったんです。」
「は?」
「だから・・・何というか、これは仕事っていうか・・・」
「何でまた急にマネージャーなの?まぁいいや。ちょうど俺、あなたに話がしたいと思ってたところなんだ。」
「話?」
うわぁ。何なの?この展開。いきなり勝手に恋敵扱いされても困るんだけど。
「まぁ、ちょっと座って話そうよ。」
そう言うと、松本さんは直ぐ傍のベンチを指差して俺を誘導した。
「あ、あんまり遅くなると、大野さんが心配するとアレなんで・・・」
「俺と一緒なんだから大丈夫だよ。まぁ、座りなよ。」
「は、はぁ・・・」
「で?マネージャーの仕事って大野さんから直接頼まれたの?」
「いや、たまたま求人見て応募したら紹介されたのが偶然大野さんのマネージャーだったんですよ。」
「もしかしてその紹介って翔さん?」
「ご存知なんですか?」
「うん。そうか・・・それなら話は早いかな。」
「え?」
「二宮さん、頼みが有るんだ。」
「お、俺に?」
「うん。是非協力して貰いたい事があってさ。」
出た出た。自分と大野さんの間を取り持って欲しいとかだよね?この人男のくせに誰かに間取り持って貰わないと想いも伝えられないのかよ?
「協力って何を?」
「あの人さ、ああ見えて誰にでも優しくするもんだから勘違いされるんだよ。」
「勘違い?」
「自分に好意持ってくれてるんじゃないかと勘違いするんだよ。」
「か、勘違いですか?」
「そう。」
「あの・・・俺はその・・・決してそういうんじゃ・・・」
「で、結局最後は勝手に傷ついて離れてくの。俺はそうやって辞めてったマネージャーを何人も知ってる。」
「ちょっと言ってる意味が・・・」
「あの人の優しさに恋愛感情なんて何一つ含まれてないわけよ。」
「ようするに・・・俺の事が邪魔なんでしょ。」
「えっ?」
「あ、いえ、何でもありませんよ。俺の独り言なんで気にしないで下さい。」
それで?協力って何なんだよ?俺にマネージャー辞めろって言いたいの?俺は大野さんに特別な感情なんて抱いてないけど、これ以上この松本って人に俺の仕事奪われてなるものかって、全く別の感情が湧いて来た。
「俺、この仕事は辞める気ありませんよ。」
「うん、むしろ何が有っても辞めないで欲しい。」
「え?」
どうして?
「あの人に特別な感情を抱かなければ永遠に続けられる仕事だと思う。」
なるほど。そっちか。分かり易い人だな。
「ただなぁ・・・大野さんがおたくのことまんざらでもなさそうなきがするんだよなぁ。」
知らんって。それなら俺じゃなくて大野さんに言えよ。
「まぁ、それならそれで尚更協力して貰い易い。」
「あ、あの?それで協力って・・・俺何すればいいんですかね?」
「コンテストに作品を出展するように勧めて欲しいんだよね。」
「えっ?コンテスト・・・?」
「そう。」
あれ?俺の早とちり?てっきり仲を取り持って欲しいと言われると思ってたけど・・・松本さんからの協力依頼というのは、最近全然仕事に身が入らないらしい大野さんのお尻を、何とか近くにいる俺に叩いて欲しい、というような内容だった。
つづく