真夜中の虹 16
「大野さんって凄い才能ある人だって事は櫻井さんから聞いてましたけど・・・」
「そうなんだよね。あの人が本気さえ出してくれれば世界にだって通用するくらいの腕は持ってるんだけど、最近は全くやる気出してくれなくて仕事に向き合おうとしないんだ。俺も長い事あの人のプロデューサーしてるんだけど、もういい加減本気出して貰わないと流石にこの仕事だけじゃ食っていけなくなる。ここ最近だけでも相当数の仕事を断ってるんだ。」
「一体、何がきっかけでやる気なくなったんですか?」
「なんていうかさ・・・ある人にフラれちゃったっていうか。」
「えっ?」
「あの人には言わないでよ。ま、どうせ言ったところで認めたりもしないけど。」
「失恋ですか・・・」
「まぁ、そんな感じかな。」
なるほど・・・だからあの時、あの人への想いを断ち切れないとか何とか言ってたわけか。櫻井さんの話では自分がマネージャーを辞めた後に大野さんの仕事に対する意欲が湧かなくなったって聞いてるけど・・・
「あっ!まさかその相手って・・・櫻井さん?とか?」
「え?いやいや・・・ま、俺からそこまでは話せないけどね。」
あー、こりゃ図星だな。
「そのコンテストって何時ですか?」
「締め切りが来月末なんだ。」
「あまり時間がないんだ。」
「出来れば直ぐに取り掛かって欲しいんだよね。今からなら余裕で間に合うから。」
「でも、俺がお尻叩いたところでやる気なんて出せるのかな。そんな単純な話じゃなさそうですけど。」
「言っとくけど、おたくだってあの人が仕事しなきゃ何時まで雇ってもらえるか分かんないんだからね?」
「あ、そうか。そりゃ困るな。」
「でも心配しなくても、今度のコンテストに出展さえしてくれれば、今後の仕事に必ず反映してくる。」
「へぇ・・・そんなに大野さんって凄い人なんだ?」
「へぇ、意外と何も知らないんだね?それじゃ、あの人のアトリエ部屋も見たことないの?」
「無いです。」
「一度見せて貰いなよ。驚くから・・・」
「はぁ・・・」
「とにかく俺が説得しても喧嘩になっちゃうんだ。」
「松本さんに無理な物を昨日今日知り合った俺なんかが説得出来るとは思えないんだけど・・・」
「どんな手段使っても構わないよ。鼻先にどんな餌をぶら提げたってかまわないから、やる気を起こさせてよ。」
「ええっ・・・そんな事言われても。」
「ダメ元で構わないから頼むよ。このままだとあの人も俺も共倒れになる。おたくだって解雇されるのは時間の問題だよ。大丈夫、絶対何とか出来るよ。」
何を根拠にだよ?
「だって、ちょっとは前向きに考え始めてる証拠でしょ。マネージャー雇い入れたってことは、そういうことでしょ。久々なんだよ。あの人がマネージャー付けるのって。」
「そ、そうなんだ。」
「仕事やる気もないのに犬の散歩や買い物頼む程度でわざわざ人は雇わないでしょ。」
「確かに・・・それもそうですよね。」
「ま、おたくだったから採用したってのも有るんだろうし・・・頑張ってよ。」
もう今は探偵じゃ無いから、この人と大野さんの関係については探る必要もないんだけど、てっきり嫉妬されるものと思ってたから変に構えてた分、拍子が抜けた。それよりも、少し顔見知りだってだけで大野さんのこと何も知らない俺に何が出来るっていうんだよ?と思いながらも、俺の頭の中はどうやってやる気を出させるかって戦略で一杯になっていた。
つづく