真夜中の虹 19
「ううっ・・・気持ち悪っ・・・」
「船酔いしちゃったんだよ。船長!ゴメン、直ぐに引き返して。」
「俺の事は気にしないでいいから、大野さんは釣りを続けてよ。」
「何言ってんだよ。顔色真っ青じゃん。とにかく引き返そう。」
まだ始めてから30分も経ってないっていうのに引き返すなんて、俺ってやつは何やってんだよ。最悪だ。必死で大野さんを引き留めたけど、思ってる以上に俺の船酔いが酷くて、結局は波止場に引き返してしまった。
「ニノくん大丈夫か?・・・大丈夫じゃなさそうだなぁ。大ちゃん、ニノくんの症状が落ち着くまでうちで休んだら?」
「悪いね。そうさせて貰う。」
「なんか・・・ホントごめんなさい。」
俺と大野さんは、波止場から数分の場所に在る船長のアパートとやらにお邪魔することになった。
「ちょっと狭いけど我慢してね。二人とも予定とか無いなら泊まってくれても全然大丈夫だから。」
「最悪そうさせて貰うよ。」
えっ?泊まるって・・・
「す、少しだけ休ませて貰ったら大丈夫だと思いますから。」
「遠慮しなくていいんだよ。俺は自宅へ戻るから。」
「え?」
自宅ってここは自宅じゃないの?
「ここは船長の別宅なんだよ。釣りの為の。おいらは何度も泊めて貰ってる。」
「そ、そうなんだ?」
「好きに使ってくれていいから。」
「助かるよ。船長ありがとね。」
「うん、それじゃ俺はお邪魔だろうからもう戻るわ。」
「お、お邪魔って///」
船長は意味不明な笑みを残してアパートを出て行った。それにしても、大野さんが少しでも元気になればって俺が誘った釣りだったのに、まさかの船酔いでダウンだなんて。ホント最悪だ。
「・・・ん?ニノ、どうかしたか?」
「ううん。あの、大野さん、ゴメンなさい・・・」
「どうして謝るの?おいらの方がゴメン。」
「何であなたが謝るの?誘ったのは俺なのに・・・」
「釣りなんてやろうと思えば何時でも出来るよ。そもそもおいらがやる気出さないから心配して誘ってくれたんでしょ?」
「大野さん・・・」
「そのくらいおいらにも分かるよ。」
「でも、せっかくこれからだったのに・・・」
「また付き合ってくれる?」
「あ・・・うん。そうしたいのは山々なんだけど。俺やっぱり船はもう無理かな・・・ごめん。」
「んふふ。釣りは岸からでも出来るよ。」
「そ、そうか。そうだよね・・・」
「その代わりこの辺だと大物は狙えないから遠くに行かなきゃだけどね。それより気分はどう?」
「あ、さっきよりは大分マシになった。」
「そっか。良かったぁ。だけどもう日も暮れちゃったし今夜はここに泊って朝イチで帰ろうか。」
「う、うん。寝室って隣の部屋?」
「うん・・・確か客用に布団あったと思うんだけど・・・」
大野さんはそう言って隣の寝室に確認しに行った。
「おっかしいなぁ・・・参ったな・・・」
「どうかしたの?」
大野さんが困った表情で居間に戻って来た。
「前泊まった時は布団余分に置いてあったんだけど・・・」
「ないの?」
「うん・・・」
それを聞いて俺も寝室を確認しに行くと、セミダブルのベッドが狭い部屋を占拠していた。どちらか一人がこの居間で寝るという選択肢はあるけれど、流石に季節は秋だし朝晩の冷え込みを考えると布団無しで寝るのって結構辛いかも。
「俺・・・もう大丈夫ですよ。帰りましょう。」
「いや、無理して運転させるわけにいかないよ。ちょっと待って・・・」
大野さんは慌てて船長に電話を掛けた。
「もしもし、船長?あのさ、客用の布団って何処?・・・え?マジか?・・・うん、分かった。じゃーね。」
「お布団、分かりましたか?」
「なんでも最近はこの部屋奥さんとしか使わないからベッドにしたらしいんだ。船長すっかり勘違いしてやがる・・・」
「え?」
「付き合ってると思ってるんだよ。」
そうか・・・どっちも否定しなかったから・・・
「あのさ、そこは深く考えないで良くない?どうせ寝るだけなんだし、一緒にベッドで寝ましょうよ。」
今思えば、これは俺にしては結構大胆な発言だった。
つづく