真夜中の虹 2
俺の職業はというと探偵。二年前に勤めてた会社が倒産しちゃって失業。ハローワークに通ってたら今の探偵事務所を見付けて、ちょっと面白そうな仕事だなってだけの理由で応募して、職業難と言われてたわりには意外とあっさり採用された。探偵事務所って漫画とかドラマで見るような事件解決的な仕事だとばかり思ってたんだけど、扉を開いてみたら実際はそういうんじゃなくて、いわゆる興信所みたいな感じで、浮気調査や人探しみたいな事が殆どだった。今回もそういった案件なわけで・・・。依頼主はニューハーフの杏奈さん。今俺が後をつけてる小野って人に一目惚れしちゃったらしい。ようは、この人が何者なのかを依頼人は知りたいわけ。俺はそれを詳しく調査して依頼人に嘘偽りなく伝える。ただそれだけの仕事だ。その為にはまずその人の自宅を突き止める必要がある。普通はこれだけでその人の住所と正確な名前が分かる。次に職場を調べて年齢や職業、細かい性格とか評判、交友関係まで分かれば任務はほぼ終了。だけど、今回のこの小野って人物・・・依頼人の杏奈さんには悪いけど、どうやらあの人には脈なさそうな気がしてる。何故ならばあれは明らかに一緒に居た潤という人と深い関係が有りそう。しかも、もう一人誰かが存在してて、二人の関係を拗らせてる感がある。まぁ、俺がどう感じようがそこから先の事は知った事じゃないけど。この仕事始めてから二年が経つけど同性愛者って展開は初めてかも。
とにかく俺は小野って人に気付かれない様に適度に距離を取って彼の後をひたすら追った。途中彼はコンビニに寄り、缶ビールやパンを買い漁ってる。俺は表でタバコふかしながら彼の買い物が終わるのをじっと待った。買い物を済ませてコンビニを出ると再び家路に向かって歩き出した。
(え?タクシー乗らないの?この近くなのかな?)
だけどかれこれ20分は歩いてる。流石に疲れてきた。
(マジでお金無いのかな?勘弁してくれよ・・・)
そんな事を考えながらひたすら後を追ってたら、突然高級タワーマンションの前で立ち止まってその上の方を見上げた。まさかここに住んでるのか?だけど彼はその場でスマホを弄って中へ入ろうとしない。
(何やってんだよ?さっさと中に入ればいいのに・・・)
その時、俺のスマホに相葉さんから電話が入った。俺は慌てて路地に入り、極力小声でその電話に出た。
「もしもし・・・」
「あっ、ニノ?どう?何か分かった?」
「いや、まだ。」
「ええ?今何処よ?」
「もうちょっとで住まいが分かる。後でまた連絡するから・・・」
「へぇ。ニノにしては手こずってるんだね。分かった。とにかく頑張って。」
「あっ、相葉さん!」
「え?何?」
「これはまだハッキリしたわけじゃないけどさ・・・」
「うん・・・」
「杏奈さん、脈無いかもよ。」
「マジで?」
「だから、まだそれはこれから調べなきゃわかんないけどね。恐らく無理だよ。」
「そっかぁ・・・」
「じゃ、見失うとアレだから切るよ。」
「わかった。それじゃまた後でね。」
路地を出て元の場所に戻ると、さっきまでぼぉーっと突っ立ってた筈の小野さんが姿を消した。
「クッソー、マジかよ!」
俺は慌ててその周辺を探した。だけどもう何処にもその姿は見当たらなかった。
つづく