真夜中の虹 22
大野さんに仕事のモチベーション上げて欲しくて釣りにさそったんだけど、結局は俺の極度な船酔いで、思惑通りにはいかなかった。でも、一つだけ急展開なことはあった。俺が失恋したと思い込んだ大野さんに交際をしれっと申し込んでみたら、意外とあっさり受け入れてくれた。実際失恋して意気消沈してるのは大野さんの方なんだから、そんな大野さんに同情されるっていうのもなんか変な感じではあるけれど、恋愛対象にしてくれた方が俺が失業して困るという事はなくなるし、大野さんが仕事に前向きになってくれるかもしれないから俺にとっては全てプラスでしかないと思った。
そして次の朝、留守番させてる小太郎が心配だからと早朝には大野さんのマンションへと戻った。
「大野さん、俺一度帰ってから出直してきますね。」
「え?わざわざ?」
「うん。昨日の事は櫻井さんに何も言ってないですし、一応毎日朝から会社に顔出すように言われてるんです。」
「面倒くさいな。いいよ、おいらが翔ちゃんに直接ニノはうちに来てもらうように話つけるから。」
「でも・・・今日は流石に帰って着替えてきたいしさ。行くんでしょ?あなたの実家。」
「あ、そうか。そうだな。」
「10時頃までには戻りますよ。」
「うん。気を付けてね。」
俺は一旦自宅へと戻り、シャワーを浴びて身支度をしていた。そこに、スマホの着信音が鳴り響いた。画面を覗くと、発信の相手は相葉さんだった。
「もしもし、ニノ?どうしてた?」
「相葉さん?珍しいね?どうしたの?」
「もう所長から連絡あった?」
「え?ないけど・・・」
「そう?多分今日にも連絡有ると思うよ。」
「どうせクビって話だよね。」
「何言ってんだよ、真逆だよ。」
「ええっ?」
「よかったじゃん。」
「いや、相葉さん、俺はもう・・・」
「俺もあれからずっと心配してたんだからね。」
「あ、あのさ・・・」
「そうそう、ニノが処分見送りになった理由知りたい?」
「えっ?な、何?」
「ちょっと事件性の有りそうな案件が舞い込んで来たんだよ。所長はその案件を俺とニノに任せてくれるって。」
「事件?またどうせいつもの調査依頼じゃないの?」
「今回は違うよ。ニノはずっと事件を解き明かす仕事がしたいって言ってたじゃん。」
「そ、そりゃそうだけど・・・」
もう、俺は探偵なんてとっくにクビだって思ってたし、今更大野さんのマネージャーを辞めるなんて言えないよ。
「相葉さん、ごめん。俺、悪いけど戻らないよ。」
「ええっ?どうしてさ?」
「どうしてって・・・俺は規約違反を犯した人間だよ。そんなヤツが探偵続けられるわけがないじゃない。」
「所長が穏便に済ませてくれたんだ。そこまで自分を追い詰めなくてもよくない?」
「それに、もうクビだと思ってたから次の仕事も決まってて・・・」
「ええっ?うそ?」
「本当です。」
「そんなの今から断りなよ。この仕事、ニノが居ないと俺一人では無理なんだって。」
「大丈夫だよ。相葉さんだってこの道何年やってるの。」
「いやいや、キャリアとかそういうんじゃないんだ。所長がニノにこの案件を任せると言った理由はね・・・」
「えっ?何よ?悪いけど俺あんまり時間ないんだ。」
「調査の依頼対象者があの大野さんだからなんだ。」
「は?大野さんはもう終わったじゃん。しかも全然事件性とは関係無かったじゃん。」
「それが、今回の依頼主は杏奈ちゃんとはまた別なの。」
「えっ?どういうこと?依頼主って誰?」
「そういうことは電話じゃ話せないよ。事務所来れないの?」
「今日は無理。と、とにかく今夜また電話するから。」
何が何だか分からないけど、相葉さんの話からすると、俺の処分が見送りになったのはどうやら大野さんが関係している。しかもそれは事件が絡んでるらしい。いやいや、これは絶対何かの間違いだ。相葉さんはたまにそそっかしいところ有るから、きっと説明を聞き間違えてるに違いない。
つづく