真夜中の虹 27
相葉さんにあんなことを言ったけど、大野さんが何の疑いを掛けられてるのか実際は気になって仕方なかった。探偵事務所に依頼を申し出るということは、依頼人が依頼対象になっている人物を何かしら疑っている可能性は高い。相葉さんの話では事件性がある案件とか言ってたけど、俺が知り得る限り、あの人は何処からどう見たって犯罪を犯す様な性格には見えない。俺は相葉さんと別れ、何か心にモヤモヤを抱えたまま大野さんの待つマンションへと戻った。
「ただいまぁ。」
「あ、ニノ、お帰り。早かったね。」
「あ、うん。大した用事じゃないから。」
「あのさ、早速急な話で悪いんだけど・・・」
「うん、何?」
「引っ越しの話なんだけど・・・」
「あっ、いつにするか?俺は何時でも大丈夫ですよ。」
「あ、いや・・・ちょっと急ぎでお願いできないかなって思って。」
「えっ?ど、どうして?」
「ちょっと急用が出来て遠方に行かなきゃなんなくなったの。引っ越しは出来ればおいらが発つ前に済ませて欲しいんだ。」
「それは構いませんけど・・・何処に行くの?」
「沖縄。」
「どのくらい行くの?」
「1か月か・・・2か月か・・・」
「そ、そんなに?何しに行くの?」
「うん・・・ちょっと知り合いに逢いに・・・」
「お、俺は?連れてってくれないの?」
「ごめん・・・」
「そ、そんなぁ。」
「留守の間悪いけど小太郎の世話を頼むよ。」
「小太郎はいいけど、その話松本さんや翔さんは知ってるの?」
「いや・・・さっき決まったばかりだから。明日の朝にでも連絡は入れておくよ。」
「ええーっ、やだぁ。俺を置き去りにするの?そんなの酷過ぎるよ。」
っていうか、仕事はどうするんだよ?コンテストまで時間無いっていうのに、まさかこの人逃げる気なんじゃ・・・
「ねぇ?何でそんな長期不在の話、急に決めるわけ?」
「どうしても会わなきゃなんない人が居るんだ。」
「誰?」
「言ってもニノには分かんないよ。」
「まさか元カノとかじゃないよね?」
「ええっ?何それ・・・違うよ。」
「それじゃ誰だよ。俺には言えない様な人なの?」
「おいらの恩師だよ。重い病気に罹ってて余命宣告を受けたらしくて・・・」
「ほ、本当に?」
「本当だよ。」
「仕事は?その間、あなた仕事はどうするの?」
「え?」
「翔さんから聞いたんだけど、コンテストの締め切りまで時間ないらしいじゃない。」
「あ、知ってたんだ。」
「どうするの?」
「おいらこないだも言ったけど、大金が絡むものは今後辞退しようかと思ってて・・・」
「あなたはいいかもしれないけど、松本さんや翔さんはどうなるの?だいいちこの俺は?」
「ニノは心配しなくていいよ。ちゃんとおいらが養うから。」
「せ、せめて今回の作品だけは出展して下さい。あなたはそんな無責任な人じゃないって俺は信じてる。」
「に、ニノ・・・」
「どうして辞めたくなったのかまでは聞きませんけど、あなたが豊かな生活出来るのは周りが支えてくれたお陰っていうのも少なからずあるはずでしょ?このまま数か月不在にすれば間違いなくあなたはやりたくない事から逃げてるだけだと思われますよ。それでもいいの?やりたくないものを無限にやれっては言いません。でも、これで最後っていう線引きはした方が良いと思うな。」
「うん・・・確かにニノの言う通りかも。」
「それじゃ、作品は完成させてから行きますよね?」
「いや・・・それは無理だよ。出発は今度の土曜日なんだ。」
「え?あと4日しかないじゃん。」
「うん。だから向こうで完成させてから宅配で送るよ。」
「ホントに?」
「うん。約束する。」
俺はもうこの言葉を信じるしかないんだけど、なんでかな?この時俺は純粋にこの人を信じようって思えた。
つづく