真夜中の虹 29

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真夜中の虹 29

 

 

そして、大野さんが出発する日の朝が来た。

「空港まで送りますよ。」

「タクシー呼んでるから大丈夫だよ。」

「俺が居るんだからわざわざタクシーなんて呼ばなくていいのに。」

「うん、おいら見送られるの苦手なんだよ。それよりニノ、おいらが居ない間はこれを使って。」

大野さんから1枚のキャッシュカードを手渡された。

「えっ?なに?」

「生活費だよ。遠慮なく使ってくれて良いから。」

「帰って来たら全て使い切ってるかもよ?」

「んふふ、いいよ。そんなに沢山は入って無いけどね。」

どんだけ俺の事信用しちゃってるんだよ。

「それにしてもキャッシュカード丸々って・・・」

「現金を準備する暇がなくてさ。残高が足りなくなったらまた補填するから。」

「う、うん・・・」

「それじゃ小太郎のこと、頼んだよ。」

「任せて。」

「それじゃ、行って来る。」

「う、うん・・・あの、それだけ?」

他に俺に言う事はないのかよ?

「え?」

「もういいよ。行ってらっしゃい。」

「行ってきます。」

俺は玄関先で小太郎を抱きながらスーツケースを片手に出て行く大野さんの背中を見送った。別れを名残惜しむ暇もなかった。大野さんってそういうところは意外とクールな人だ。恋人を放置したまま遠征するくせにキャッシュカードだけ渡して小太郎の心配?ま、いいけど。

大野さんが旅立ってからおよそ30分後、何も知らずにあの松本さんがやって来た。

「どう?制作進んでる?・・・あれ?大野さんは?」

「あ、たった今沖縄に行っちゃいましたよ。」

「沖縄?」

「聞いてないんですか?」

「初耳だけど。」

「ちゃんと松本さんにも話しておくって言ってたんだけどな。」

「いやいやいや・・・ちょっと待ってよ。作品はどうなってる?」

「あ、それは大丈夫です。沖縄から送るって言ってました。」

「本当かよ?ってか、沖縄なんか何しに行ったの?」

「恩師に逢いに行くって言ってました。」

「ジョニーさんか・・・」

「知ってるんですか?」

「あの人の実力を発掘したのはジョニーさんだからね。」

「そうなんだ。そのジョニーさんって人が重い病気らしくて、余命宣告をされたとか言ってました。」

「マジで?」

「俺にはそう説明してくれましたけど。あ、1,2か月戻れないかも知れないって。」

「は?そんなに?」

「ええ。俺もそんなに長い期間居る必要有るのかって疑問に感じたんだけど、出来るだけ一緒に居てあげたいのかなって。」

「それよりコンテストの締め切り間に合うのかよ。」

「ちゃんと本人は分かってるから大丈夫ですよ。」

「ホントかよ?」

「ちゃんと俺と約束してくれました。でも・・・大野さん、お金が絡む仕事はもうこれで最後にしたいって言ってました。」

「はぁ・・・まだあの人そんなこと言ってるんだ。」

「あの、何が原因なんですか?」

「えっ・・・」

「あの人に何があったんですか?一体誰にフラれたの?」

「直接聞いてないんだ。」

「俺には何も話してくれないんです。」

「フラれたっていうか、騙されたんだよ。」

「騙された?」

「初めて着いたマネージャーの子がね。大野さんに気の有るフリをして近付いて強引に1枚の絵を描かせたんだ。大野さんはその作品を大切にその子が保管してるものと思ってたんだけど、彼女は大野さんの前から突然姿を消した。その後その絵はオークションに掛けられてとてつもない金額で落札されてたんだ。」

「そ、そんなことがあったんだ。」

「あの人、お人好しだから、人を疑うって事を知らないんだよ。元々彼女は絵を描かせる事が目的で大野さんに近付いた。だけど大野さんは純粋だから一方的に彼女にのぼせちゃったんだ。俺がもっと彼女の事を前もって調べておくべきだったんだ。」

なるほど、だから大野さんに近付く得体の知れない人間の事はこの人が予め興信所使って調べてやってるわけだ。俺の事も。

「大野さんがもう仕事したくないってまで思う様になったのはさ、その半年後にそのマネージャーの子が突然自殺を図って亡くなったんだ。」

「ま、まさか、その絵を返してくれとかその人に詰め寄ったから・・・とかじゃないですよね?」

「それはないよ。一度あげた物はもう売ろうが捨てようが貰った人の勝手だって事はあの人も分かってた筈だからね。ただ・・・」

「ただ?」

「亡くなったのは自分のせいだって思ってるみたいなんだよね。」

「どうして?大野さんは返してくれと詰め寄った訳じゃ無いんでしょ?」

「そもそもそんな値打ちのある絵を描かなけりゃこんな事にはならなかったって悔やんでたからね。」

「いやいや、待ってよ。むしろ大野さんは被害者ですよね?しかもオークションの転売が直接その人の自殺と関係してるなんて誰も言ってないわけでしょ?」

「まぁね。でも・・・そういうヤツなんだよ。大野さんって人は。」

俺の中のあの人への疑問がこれで全てクリアになった。そんな大変な出来事が有ったなんて、俺には何も話してくれなかったな。俺は信頼されてると思ってたけど、結局は寂しさを紛らす為の道具でしかなかったってこと?そして、相葉さんに依頼してきた人物も恐らくその自殺の原因を大野さんのせいにして慰謝料でもせしめてやろうと企んでる第三者が居るって事だろう。お金持ちになるとそういう輩がうようよ湧いて来るのは確かなんだよな。あの人がやる気失くすの分からなくもないって同情すらしたくなった。

 

つづく

 

 

 

 

 

 

 

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投稿者: 蒼ミモザ

妄想小説が好きで自身でも書いています。 アイドルグループ嵐の大宮コンビが特に好きで、二人をモチーフにした 二次小説が中心のお話を書いています。 ブログを始めて7年目。お話を書き始めて約4年。 妄想小説を書くことが日常になってしまったアラフィフライターです。

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