真夜中の虹 31
「あのさぁ、頼みが有るんだけど。」
「頼み?」
「うん。授賞式なんだけど、あなた大野さんの代わりに出てくんないかな。」
「ええっ?お、俺が?」
「ジョニーさんの告別式が重なってしまって大野さんが出られないんだよ。」
「そ、それじゃあ、松本さんが出て下さいよ。」
「そうしたいのは山々なんだけど、俺も生前ジョニーさんには色々と世話になったから告別式には顔出さないといけなくて。」
「マジで?他に誰か居ないの?」
「授賞式と言っても、トロフィーと目録だけ受け取るだけだからさ。」
「でも、俺なんかよりもっとそれなりに居ないの?」
「頼むよ。特にコメントとかも話す必要は無いからさ。主催者側にはちゃんと俺から説明しとくから。」
「はぁ・・・仕方がないですね。そういうことなら・・・」
「ホント、すまない。」
「あの、ところで大野さんなんだけど、あの人生きてます?安否確認取りたいんだけど、全然連絡取れなくなってて。」
「俺も大野さんに電話何度もしてるんだけど全く繋がんなくて困ってるんだよ。」
「そうなんだ。恩師が亡くなって憔悴しきっちゃってるのかな。」
「よほどショックだったとは思うけどね。着信拒否までする必要あんのかね。ホント困った人だよ。」
「そうですよね。あ、そのジョニーさんって人は元々沖縄の方なんですか?」
「ううん。元々は東京だよ。高齢になってから移住したんだ。」
「そうなんだ・・・」
「ジョニーさんは優しくて頼れる良い人だったんだ。大野さんもあの人が居なけりゃ今の才能は世の中に出ることはなかった。」
「へえ・・・そんなに凄い人だったの?」
「大野さんの初の個展を主催してくれた人なんだよ。掛かる費用も全てジョニーさんが持ってくれた。」
「そんなに凄い人だったんだ。」
「うん。界隈でも指折りの資産家だった。」
「それにしてもおたくにも連絡もしないなんて大野さんらしくないな。向こうで大野さんに会ったら直ぐに電話入れるように伝えとくよ。」
「お願いします。」
大野さんとは本当にあれから全く連絡が取れなくなってしまってた。携帯に何度も電話するけど繋がらないから、そりゃあ心配にもなるよ。松本さんが沖縄に発って、俺は大野さんからの連絡をひたすら待っていた。あなたのせいで俺が授賞式に出なくちゃなんなくなったって文句の一つでも言ってやろうって構えてたけど、どういう訳か連絡が来ないから更に心配になった。
俺、あの人を怒らせるような事でもした?してないけどな・・・
とりあえず授賞式に出て、大野さんの代役を務めた俺はマンションに戻って直ぐに松本さんへ報告の連絡を入れた。
「あ、もしもし、松本さん?二宮ですけど。あの、授賞式無事終わりましたんで。」
「あー、お疲れ。」
「あの・・・それで大野さんは?」
「えっ?」
「連絡ずっと待ってるんですけど・・・」
「は?俺大野さんにはちゃんと伝えたよ。まだ連絡来ないの?」
「ええ。あの人生きてるの?」
「生きてる、生きてる。多少ショックで元気はなかったけど、ちゃんと元気みたいだよ。」
「それじゃ何で連絡くれないんですかね?」
「お、俺に聞かれても・・・分かった。もう一度本人に聞いてみるから。」
「ふぅ・・・俺、何か知んないけど嫌われちゃいましたかね?」
「いやいや・・・それは直接本人に聞いてよ。今そこらへんにいるなら捕まえて代わるんだけど、居ないのよ。」
「あ、俺はべつに急いでませんから。大野さんが連絡くれない理由だけでも聞いて貰えれば、有難いかな。」
「とにかく、捕まえたらその場で連絡させるから。もう少し待ってて。」
「分かりました。それじゃ・・・」
間違いなく大野さんが俺を避けてる?何故?松本さんとは普通に顔を合わせて話をしてるのに、俺には連絡してこないのは絶対におかしい。喧嘩も何もしていないのに、一体どうしちゃったっていうの?
つづく