真夜中の虹 32
そしてその日の夜、俺のスマホに着信音が鳴り響いた。てっきり大野さんからだと思ったけど、スマホの着信表示を見たら松本さんだった。
「もしもし・・・」
「あ、松本です。今大丈夫?」
「ええ、大丈夫ですよ。」
「あのさ、大野さんなんだけどね、あの後何とか捕まえるには捕まえたんだよ。」
「何か言ってました?」
俺に直接電話しないってことは、やっぱり何か理由があるんだな。
「それがさぁ、もう暫く帰れないって、その事だけを伝えて欲しいって。ちゃんと自分で伝えるように言ったんだけどさ・・・」
「暫くって・・・どうしてです?あとどのくらい?」
「いや・・・それも、俺にも言わないんだよね。」
「他に何か言ってませんでしたか?」
「どうして自分で言わないのかって問い詰めたんだけど・・・だんまり決め込んじゃってさ。」
「そうですか・・・ま、元気ならいいんです。」
「いつもの元気は無いけど、それはジョニーさんが亡くなったばかりだしね。それよりニノ、明日こっちに来ない?」
「え?」
「旅費は俺が持つからさ。こんな状態でいつまでも待たされるのも困るでしょ。」
「そ、それは・・・」
「今から明日の午後の便を手配するから、小太郎はとりあえず翔さんにでも預けて沖縄に来なよ。到着時刻に空港まで迎えに行くから。」
「でも、翔さんも突然そんなこと言われても困ると思うけど・・・」
「俺が翔さんには電話しとくよ。」
「あ、あの、松本さん?どうしてそこまでしてくれるんですか?」
「え?あぁ・・・コンテストの御礼だよ。」
「御礼?」
「うん。そもそもニノが大野さんを説得してくれたからコンテストに間に合ったし、受賞も出来た。」
「俺は何にもしてませんよ?」
「そんなことないよ。授賞式だってちゃんと出てくれたしね。本当に御礼を言わなきゃなんないのは大野さん本人なんだ。」
「行っても追い帰されませんかね?」
「そんなことはさせないよ。とにかく明日空港で待ってるから。」
「う、うん・・・」
松本さんはそう言ってくれたけど、俺は不安だった。これと言って心当たりがある訳じゃないけど、どういうわけか大野さんは俺と直接話しをすることを避けてる。こんな状態で会いに行ったとしても、きっとまともに話なんてしてくれるとは思えない。だけど、何か凄い中途半端なこの状況をいつまでも俺が納得できる訳もなく、もしもあの人が俺との関係をこのまま終わりにしたいと考えているのなら、それはそれでハッキリさせた方が良いと思った。
そしてその翌日、俺は翔さんに小太郎を預けて羽田に向かった。そして色んな複雑な想いを抱えながら沖縄へと旅立った。沖縄に到着すると、約束通り松本さんが到着ロビーで待っていた。
「よぉー、こっちこっち。」
「すみません。お待たせしました。」
「それじゃ、早速行きますか。」
「ど、何処へ?」
「決まってるじゃない。大野さんところだよ。」
松本さんは俺をレンタカーを停めてある場所まで誘導し、その車に乗り込んだ。
「あの、大野さんは何処のホテルに?」
「あっ、言ってなかったっけ?ホテルではないよ。実は大野さん、こっちに家持ってるんだよ。」
「えっ?」
「だって考えてもみなよ。こんな長期滞在でホテルなんか利用してたら宿泊代幾ら有っても足りないでしょ。」
「そ、そりゃそうですけど・・・」
「こっちは東京と違って不動産も相当安く手に入る。」
「やっぱり本気で言ってたんだ。」
「えっ?」
「あの人、ジョニーさんが亡くなる前に俺にこっちで一緒に暮らさないかって言ってたの。」
「は?何?ごめん、おたくらってどういう関係なの?」
「一応、恋人ですけど・・・」
「えええっ?な、何でそれ先に言わないかな?」
松本さんは俺のその一言にめちゃくちゃ驚いた様子で、おそらく急にその目的地を変更し、次の信号から進行方向をUターンした。
「あ、あの、松本さん?どうかしました?」
「予定変更な。」
「えっ?」
「今夜はとりあえず俺が泊まってるホテルにニノも泊って。」
「で、でも大野さんは・・・?」
「まぁ、慌てなさんな。今はその・・・そういうことならまだ会わない方が良い。」
「な、何で?」
「ちょっとゴメン。それあとでゆっくり説明するから。」
松本さんは大野さんに直接会わせるために俺を沖縄まで呼んでくれたはずなのに、急にどうしちゃったんだろう?松本さんの明らかに困窮しているその態度で、今大野さんが普通の状態では無いのかもって事に多少なりとも察しはついていた。
つづく