真夜中の虹 33
結局何の説明もないまま俺は松本さんの宿泊するホテルへと連れて来られた。松本さんはホテルのフロントで空いてる部屋がないか問い合わせ、たまたまキャンセルが出た部屋が有ったらしくて、その部屋の鍵を受け取ると、俺を部屋まで誘導した。
「あ、あの・・・松本さん?」
「とりあえず荷物置こうか。その後カフェでお茶でもしよう。」
「う、うん。」
俺は松本さんに言われるままに部屋に荷物を置くと、そのホテルの中に在るカフェへと向かった。そしてテーブル席に着くなり、松本さんが上着のポケットからスマホを取り出して立ち上がった。
「ゴメン、ちょっと待っててくれる?」
「あ、うん・・・」
松本さんは俺に背中を向けて誰かに電話を掛け始めた。
「あ・・・俺、松本だけど。今からこっち来れる?・・・うん、急ぎ。必ず来なよ。待ってるから。」
電話を終えると、俺の方を振り返ってニッコリ微笑んだ。
「誰か・・・来るの?」
「あ、うん・・・ま、それはいいけど、沖縄は初めて?」
「うん、初めてだけど。」
「そうか。この近くにソーキそばの美味い店有るんだ。行ってみる?」
「あの、そんなことより・・・」
「いつからよ?」
「え?」
「大野さんとニノだよ。」
「あ・・・俺がマネージャーの仕事始めてからです。」
「ふうん。それどうして先に言ってくんなかったのよ。」
「えっ、それって必要ですか?」
松本さんが幾らあの人の幼馴染みだとしても、何でそこまでプライベートな事をこの人に報告する義務があるの。
「ね?あなた本当に大野さんのこと好きなの?」
「は?」
「これ結構大事なことだからちゃんと答えてくれる?」
「な、何?」
「ぶっちゃけ沢山金持ってるから・・・じゃないよね?」
「失礼だな。そんなんじゃないです。俺、たとえ大野さんが貧乏人だとしても付き合ってますよ。」
「その言葉信じても良いんだよね?」
「だから、何なんですか?そもそも俺はあの人と知り合った当初、そんな凄い人だなんて微塵にも思わなかったし、言っちゃなんだけど、着てる物だって毎回俺より無頓着なトレーナーとパンツだし、どこからどう見たって金の匂いなんて一切しない人じゃないですか。でも、ブランドに身を固めた大野さんなんて想像できないし、そんな大野さんなんかより、あの飾りっ気のない大野さんが俺は好きなんです。悪い?」
あんまり興奮して一気に喋ったんで喉がカラカラになって慌てて目の前の水を手に取ると、俺は一気にそれを飲み干した。
「フフフッ・・・悪くないよ。」
「あ、それに、今回大野さんから留守中の生活費ってキャッシュカードを預かってますけど、俺一切それに手を付けてませんから。」
「へえ・・・なるほどね。何でまた?使えばいいじゃん。」
「何かそういうの嫌いなんで。試されてるみたいで。」
「ふぅん、なかなか変わってるね?」
「そうかな。」
「普通は喜んで使うと思うけど・・・ね?大野さん?」
「えっ?」
松本さんの視線は俺の背後に向けられている。俺は自分の真後ろに大野さんが立って居ることに気付き、慌てて振り返った。
「お、大野さん!」
「ニノ・・・」
「それじゃ、俺は部屋にもどるから。大野さんもちゃんと自分の口でニノに説明しなきゃ駄目だよ。こんなにあなたの本質を理解して想ってくれる人、俺は他に知らないけどね。それからニノ?」
「はい?」
「大野さんの今回の事だけど、それなりに考えがあってのことだろうから許してやってよね?」
「はぁ・・・」
松本さんは大野さんが俺を避けていた理由が一発で分かったみたいだけど、俺には説明なしではサッパリだ。許すも許さないも訳が分かんない。松本さんはその場に俺と大野さんを残して部屋に戻って行った。大野さんはというと、松本さんが座ってた椅子にゆっくり腰掛けて俺の顔を何とも愛おしそうな目で見つめた。俺が会いたかったその人は少し痩せた?髪も髭も伸びていてちょっと別人に見えた。
「もう・・・嫌われたと思った。」
「ゴメン、ホントすまなかった。」
大野さんはそう言いながらテーブルに額が付くほど深々と俺に頭を下げた。
つづく