真夜中の虹 34
「謝らなくていいから、ちゃんと説明して貰えますか?」
「うん。それじゃ、一緒に来てくれる?」
「えっ?何処に?」
「おいらの家。」
「そうそう、あなたこっちに家を購入してたことどうして教えてくれなかったの?」
「・・・来れば分かるよ。」
およそ1か月振りの再会だっていうのに何だか重い空気だった。そんなに俺に会いたくなかったのか?
ホテルの玄関前に停まってるタクシーに乗り込み、そこから約5分と離れていない大野さんの別宅とやらに向かった。目的の場所に到着しタクシーを降りると、そこはごく普通の住宅街だった。
「ここだよ。」
目の前の建物は、2階建ての新築という程新しい物件ではなかったけど、周りの住宅より明らかに広い敷地でこの辺りじゃひと際目立ってた。大野さんはポケットから家の鍵を取り出すと速やかに玄関の扉を開けた。
「ただいまぁ・・・」
「えっ?」
ただいまって・・・ここに誰か他に住んでるの?
「智おかえりなさい。ん?この人だあれ?」
走って俺達を出迎えたのは5,6歳くらいの少年だった。えっ?待って・・・隠し子?
「ニノ、マコトっていうんだ。」
「・・・」
そりゃ、言葉が出ないよ。いきなり、当たり前みたいに子供を紹介されても。
「とにかく上がって。」
もう、衝撃過ぎて何が何だか頭が追い付かない。大野さんって独身だったんじゃなかったの?もしかしてこの後奥さんって人が現れて紹介されるって流れ?冗談じゃないよ。いやいや、どんだけ無神経なの?
「どうした?早く上がって?」
「あ、あの・・・」
「中でゆっくり説明するから。」
とにかく、説明を聞かないことには話にならない。で?母親は何処よ。俺は勝手に覚悟を決めて部屋に入った。ところが、部屋中キョロキョロ見回すけど、何処にもそれらしき人は現れない。リビングのボードの上とかも家族写真とか無いか探すんだけど、そういうものも見つからない。あ・・・もしかして、未婚のパパとか?ま、どっちみちこういう事だから俺に知られたくなかったわけか。それにしてもショックが大きすぎる。大野さんはキッチンでコーヒーを淹れると言ってその場を離れた。
「ねぇ、お兄ちゃん東京から来たの?智のお友達?」
「えっ・・・」
「真琴、ちょっと2階で遊んでて。」
「ええ~やだぁ。」
「あとで遊んであげるから。」
「ホント?約束だよ?」
「うん、約束する。」
真琴って子は素直に大野さんの言うことを聞いて二階に上がっていった。大野さんは俺の目の前にコーヒーカップを置くとようやく話を始めた。
「生前ジョニーさんが施設から引き取って育ててた子なんだ。」
「えっ?」
「おいらの隠し子と思った?」
「お、思った・・・」
「ゴメンね。驚かして。」
「で、どうしてその子があなたの家に?」
「亡くなる前にジョニーさんから頼まれたんだよね。」
「えっ?」
「真琴のこと頼むって・・・」
「は?」
「ジョニーさんはずっと独身で身内と言っても兄妹も高齢でさ、親戚も少ないんだよ。おいらが断れば真琴はまた施設に戻されてしまうんだ。だから・・・」
「あなたがそれを引き受けた?」
「うん・・・」
「どうして?あなたはジョニーさんの親戚でも何でもないのに?あなただってこれから結婚もするかもしんないのよ?子供居たんじゃそれだって簡単にいかないかもしれないんだよ。ちょっと人が良過ぎやしない?」
「ニノは・・・?真琴が居たらおいらとは付き合えない?」
「そ、それは・・・」
「無理しなくていいから、正直に答えてよ。」
「子供は動物飼うのとは訳が違いますよ。」
「う、うん。」
「分かってるならどうしてそんなこと引き受けるの。」
まぁ、そうやって責めたところで、この人なら嫌とは言えなかったか。
「大野さん?ひとつ聞いてもいいですか?」
「ん?何?」
「俺がこのまんま何も知らずに東京で待ってたらどうするつもりだったの?」
「いつか話そうとは思ってた。」
「いつかって?いつ?」
「・・・いつか。」
「もう、何だよそれ。どうしてもっと早く相談してくれなかったの?こんなの単に時間の無駄じゃない。」
「ごめん・・・」
「俺はてっきりあなたに嫌われたと思ってたんだよ。」
「ごめん・・・」
「まあ、いいや。あなたは覚悟出来てるんですよね?仮に俺がついてこなくても、一人で育てていく覚悟出来てるんだよね?」
「う、うん。」
「俺が居なくても平気なんだよね?」
「平気なんかじゃないよ。」
「じゃあ、どうして欲しいの?」
「そ、そりゃぁ、おいらと・・・ここで一緒に暮らして欲しい。」
「どうして?また小太郎みたいにあの子のお世話を俺に押し付けて逃げようと思ってる?」
「そんなんじゃないよ。でも・・・そう思われても仕方ないか・・・」
「大野さん、俺、正直子供は苦手なんですよね。あなたとこのまま終わりにはしたくないけど、一緒に暮らすかどうかは少し考えさせて下さい。」
つづく
つづく