真夜中の虹 35
少し考えさせて欲しいという俺のその言葉を聞いて、大野さんは俺からそう言われるのを覚悟してたかのように、うんうんって頷いた。俺はそんな大野さんを見て、ちょっとイラッときてしまった。
「あなたが誰にでも優しいのは知ってます。だけど何だよそれ?」
「えっ?」
「最初からどうせ俺はこの話聞いたら自分から離れてくとでも思って決めつけてたんでしょ。」
「に、ニノ・・・」
「でも、おあいにく様。俺はあなたと別れる気なんて有りませんから。」
「でも・・・子供が苦手だって・・・」
「別にあなたのことが嫌いになったってわけじゃ有りませんし。正直ちょっと呆れてはいますけど。子供は苦手ですけど、それとこれとは話が別です。」
「そっか。うん、でもニノがしたいようにしていいよ。」
「ねぇ、何で東京じゃ駄目なんですか?」
「え?」
「どうして沖縄に拘るの?」
「都会よりも伸び伸び育てられるんじゃないかって思って。」
「それはそうだろうけど・・・」
全ては真琴くん中心で物事を考えてるわけだ。
「戸籍はどうするんですか?」
「真琴?」
「はい。」
「養子縁組にしようと思ってる。」
この人本気なんだ・・・
「あの?今、真琴くんはジョニーさんの戸籍に入ってるんですよね?」
「あ、うん。」
これって相続が絡んでくるんじゃないの?松本さんの話ではジョニーさんって相当なお金持ちだったと聞いてるし、ずっと独身だったということだから、少数の親戚が居たとしても真琴くんが遺産の半分を相続するってことだよな。
「はぁ・・・なるほどね。」
「えっ?」
「ううん。何でもない。」
松本さんがこの俺に金目当てでくっ付いてるかどうかを確認したのはこれが有ったからなのか。それにしても、流石の大野さんも多額の資産に目がくらんじゃった?
「大野さん、クリエーターの仕事はもうしないの?」
「え?あ、うん。こないだのコンテストで最後にするつもりだった。」
「つもり?」
「亡くなる前なんだけど、ジョニーさんに説教されちゃってね。」
「そうなんだ。」
「何が有っても続けろって・・・」
「へぇ・・・」
「こっちでゆっくりマイペースにはなると思うけど続けてくつもりなんだ。」
「俺・・・何ならこっちであなたと暮らしても良いですよ。」
「え?」
「だって仕事続けるのならマネージャーは必要でしょ?」
「いいの?」
「俺も失業したくはないんで。あ、でも一つだけ条件があります。」
「条件?」
「俺はさっきも言いましたけど、子育ての経験無いし、あなたのお世話はしますけど真琴くんのお世話は全面的にあなたがやって下さい。」
「それだけ?」
「それだけです。」
「本当にそれだけで一緒に暮らしてくれるの?」
「はい。」
「うわぁ、ありがとう!今夜はここに泊るよね?」
「あ、いや、松本さんがせっかくホテルの部屋を取ってくれてるんで・・・」
「そんなのキャンセルしなよ。キャンセル料はおいらが持つよ。」
「で、でも荷物も置いてきちゃったし・・・」
「ね、そうしなよ。おいらが潤に荷物預かるように頼んでやるよ。そうだ、せっかく来たんだから行きたい所有ったらおいらが案内するよ。」
おそらく大野さんは俺が一緒に暮らすことをはなっから諦めてたんだろうな。だからこの急展開がよほど嬉しかったのか、ちょっと何時になく興奮気味で松本さんに電話を掛けた。
つづく