真夜中の虹 37
「ゴメン、お待たせしました。」
「元気そうだね。」
「うん、お陰様で。それにしてもここ久し振りに来た。」
「うん、昔は良く二人で来たよね。それでどう?新しい仕事には慣れた?」
「まだ正直仕事らしい仕事してないけどね。」
「もう探偵の仕事する気は無いの?」
「それこの前から言ってるけど俺には向いて無いって分かったから。」
「実は俺、独立しようかと思ってるんだ。」
「えっ?ど、独立?」
「うん。でさ、ニノ、一緒にやらない?」
「今の事務所は?」
「辞めた。」
「は?何で?」
「色々あってさ・・・」
「俺みたいに規約違反しちゃったとか?」
「いや、そういうんじゃないけど。」
「え?だったら何で?」
「俺、やっぱニノとじゃないと駄目なんだわ。」
「は?」
「ニノが辞めた後に代わりの男の子が入って来たんだけどさ、そいつのせいでとある案件の調査がめちゃめちゃになっちゃって。」
「ええっ?マジで?それって大野さんの案件だよね?」
「あ、そっちじゃないよ。それはまた別の案件。そうそう、大野さんの案件なんだけど一応調査は終了したんだ。」
「何か分かったの?」
「あ、そのことで今日は呼び出したの。大野さんだけど、自殺した彼女との間に実は子供が居たらしいんだ。」
「えっ?」
「彼女は出産して間もなく亡くなったんだけど、その子は沖縄の恩師のジョニー喜多山って人が引き取って育ててたらしくて・・・」
「う、嘘だ・・・」
「ニノ?」
「そんなの作り話に決まってる。」
「いや・・・そこは俺もちゃんと裏を取ったんだ。間違いないよ。」
「だって彼女自殺したのに他殺と疑って依頼したんだよね?しかも大野さんを疑うなんて絶対おかしいでしょ。」
「うん、まぁ結論から言うと大野さんはやってない。」
「当たり前だよ。馬鹿馬鹿しい。ついでに言っておくけど、真琴はジョニーさんが施設から引き取った子だから。」
「大野さんがそう説明したの?」
「そうだよ。」
「・・・まぁ、信じる信じないはニノの自由だけど、俺は誰かに嘘を話したところで一円にもなんないからね。」
確かに・・・相葉さんは探偵事務所を辞めてて、俺が大野さんのところで働いてる事を知ってて調査で分かった事をそのまま俺に教えてくれてるだけだ。俺に嘘の作り話したところで何の得もない。となると、大野さんが俺に嘘を付いたことになる。どうして?
「まぁ、DNA鑑定すれば全て分かることではあるけどね。」
「だ、だけど大野さんは彼女にフラれたって・・・」
「フラれた?あぁ・・・うん、大野さんは彼女の妊娠を知って入籍しようと持ち掛けたみたいだけど、彼女が頑なにそれを断ったらしいんだ。」
「なんで?」
「彼女は元々金が目当てで大野さんに近付いたんだ。元彼がとんでもない奴で彼女の名義で多額の借金作ってたらしくて・・・でも大野さんはそういうのも全部分かってて彼女を受け入れようとしたんだ。大野さんのそういう優しさがかえって彼女を追い詰めた。」
「それで・・・自殺を・・・?」
「うん・・・」
「そんな・・・そんなの辛過ぎるよ、いくらなんでも・・・」
俺は人前で滅多に泣かないんだけど、この時ばかりは感情がコントロール出来なくてぽろぽろと涙が溢れて頬を伝った。
「えっ?に、ニノ?」
「ご、ゴメン・・・気にしないで・・・」
気にするなと言われても無理だよな。相葉さんは焦った様子で俺に目の前のおしぼりを差し出した。色んな感情が入り乱れて眩暈すら感じる。幼い息子を置いて自ら若い命を絶った彼女への憤り、何も知らず大野さんの言葉だけを信じた自分への怒り、これからどうすればいいんだろうという不安。
今の俺にはまだ現実を受け入れる事も出来なくて、お願いだから何かの間違えであって欲しい、とさえ思った。
つづく