真夜中の虹 38
「あ、そうそう、杏奈ちゃんがぼやいてた。近頃全然大野さんが店に現れないって。」
「多分もう行くことは無いよ。あの人沖縄に引っ越すんだ。」
「沖縄に?」
「うん。実はそのジョニーさんって人が先日亡くなったんだ。」
「え?そうなの?知らなかった。それじゃ子供は?」
「大野さんが引き取った。」
「それはそうなるよな・・・」
「俺も沖縄に住むことにしたんだ。」
「ええっ?何で?」
「俺はあの人のマネージャーだから。」
「いや、だからって沖縄までついて行く?」
「俺も正直悩んだよ。けど、また失業とかするのは嫌だしさ。」
「だったら俺とまた一緒に仕事しようよ。」
「相葉さんが俺を必要としてくれるのは凄く有難いよ。でも・・・あの人にはもっと俺が必要だろうから。」
「何か・・・恋人みたいな言い方するよね。」
「うん、似た様なものだから。」
「え?何かニノ以前と雰囲気変わっちゃったな。何か心配だよ。とにかく気が変わったら何時でも連絡して。俺はずっと待ってるからさ。」
「・・・うん。」
「ちょっと、本当に大丈夫?自宅まで送ろうか?」
「大丈夫、子供じゃないんだから。」
大野さんの話を聞いてから途端にテンションが下がりまくった俺。過剰に心配してくれる相葉さんに別れを告げ、俺はマンションに戻った。相葉さんにはあんな事言ったけど、本当に大野さんには俺が必要なんだろうか?ジョニーさんが亡くなった後、俺の事を避けてたのって、真琴くんの事を俺に何て説明したらいいのか悩んでたからだろうけど、まさかホントに大野さんの子供だったなんて・・・それを知ってしまった俺は何も知らないふりをしてずっと一緒に暮らす事なんて出来るんだろうか?あの人はこの俺に何を求めて一緒に暮らしたいって言ったんだろう?こうなってくると、俺と付き合ってくれると言ったのも、もしかすると普通の恋愛や結婚を諦めてたから半ばヤケクソになってこの際男でも何でも良いやって思って受け入れたのかな。どう頑張ってもネガティブな事しか考えられなくなってしまう。だったら、もう沖縄になんて行くのやめていっその事このままあの人の前から姿消してしまう?そんな事をして俺は後悔しないの?俺は一体どうしたいの?答えが見つからないまま数日が経ち、沖縄に戻る日がやって来た。もう、あれこれ考えても仕方ない。嫌だと思ったらさっさと大野さんと別れて東京へ戻ればいいだけ。そう思う事にして俺は小太郎と沖縄へ向かった。
「お帰り、ニノ」
「た、ただいま。」
「おーっ、小太郎も元気だったか?長らくほったらかしにしてゴメンな。」
暫く大野さんと小太郎の濃厚なスキンシップを横目に、俺の時はそこまでしてくれなかったのにって犬にジェラシー感じて不機嫌を露にしてしまう。そして、そんな俺に気付いた大野さん。
「ニノ?」
「はい?」
「流石に疲れてるよね?風呂沸かすから入りなよ。」
「う、うん。あの、ところで真琴くんは?」
「母ちゃん所。」
「え?お母さん?あなたの?」
「うん。昨日東京から姉ちゃんとこっちに来てるんだ。」
「来てるって何処に?」
「空港の傍のホテルだよ。」
「何しに?」
「何って、こっちの様子見に。」
「何でここに泊って貰わなかったの?」
「ニノが気を遣うかと思って。」
「だって、あなたの家族でしょ?何だよ、言ってくれれば俺がホテルに泊まったのに。」
「いいんだ。」
「どうして?いいわけないじゃない・・・」
そう言い終わる前に俺は大野さんに抱き締められた。
「えっ・・・大野さん?」
「ゴメンな。なかなか二人っきりになれなくて。」
「あ・・・あの///」
大野さんの顔がゆっくりと近付いて、それはごく自然に、そのままお互いの唇が磁石のように吸い寄せられるように重なった。これが、大野さんと交わした初めてのキスだった。
つづく