真夜中の虹 4
「ここが俺んち。散らかってるけどどうぞ。」
「あ、ありがとう。それじゃお邪魔します。」
彼の住まいはやはりあのタワーマンションだった。散らかってるって何処が?って思うほどスッキリ片付いた玄関だ。
「トイレ、そこのドアのところだから・・・」
「そ、それじゃお借りします。」
腹が痛いという芝居で家に上げて貰ったのだから、とりあえず俺はトイレを借りた。とにかくこれは絶好のチャンスだから何とか彼から纏めて情報を聞き出したいな。だけどどうやって聞き出そうか・・・数分間俺はそんな事を考えてトイレから出た。さて、どうやって切り出そう・・・
「はぁ~助かりました。ありがとうございました。」
「大丈夫?」
「実はまだちょっと不安なんだけど・・・でも多分大丈夫です。」
「時間があるならもう少しここで休んで様子見たら?また激痛襲ってくるかもしれないよ。」
「いいんですか?」
「おいらは構わないよ。」
「それじゃぁ、お言葉に甘えさせて貰います。」
それから俺はリビングに通されて、ソファーに座るように促された。こいつはラッキーだ。このまま帰るってなったらマジでトイレ借りただけになっちまう。
「あ、あのぉ・・・」
「何か飲む?」
「いえ・・・大丈夫です。お構いなく。」
「お腹壊してるからやたら飲まない方がいいか。あ、薬あるよ。ちょっと待ってて。」
「ほ、ホントに大丈夫ですから・・・」
「そう?」
「そんなことより、見ず知らずの僕なんかにこんなに親切にして頂いて・・・」
「だって、小太郎が・・・」
そう。さっきからその小太郎って犬・・・俺の膝の上ですっかり寛いでいやがる。
「人懐っこい犬ですね。」
「いや・・・ここまで初対面で懐くの初めてかも。」
「そ、そうなんですか?」
確かに、さっきも公園でめちゃめちゃ俺舐めまわされたんだよ。だけどコイツのお陰で今俺はここにこうしていられるわけで。
「あ、そろそろお仕事でしょ?やっぱり僕、帰りますね。」
「え?でも大丈夫なの?」
「はい。お陰で随分回復したみたい。あ・・・僕は二宮って言います。お名前お聞きしてもいいですか?」
「え?おいら?おいらは大野。」
「おおのさん?」
「うん。」
何だ?小野じゃないのか?杏奈さん、聞き間違えてやがる。
「大野さん、お仕事は?いつも何時頃帰ります?」
「え・・・」
「あっ、あらためて御礼に伺おうと思って。」
「御礼なんていいよ。」
「そうはいきませんよ。」
「それじゃぁ・・・また小太郎に会いに来てよ。」
「え・・・」
「おいらフリーで仕事してるんだ。殆ど家に居るけど・・・そうだ、名刺あげとくね。来る時は前もって電話して。」
大野さんはそう言って俺に名刺を差し出した。
「ク、クリエイティブデザイナー?」
「うん。美術の仕事してるんだ。」
「へ、へえ。」
まさに急展開だった。自分が調査されてるとも知らず、こちらが聞きたかった事を向こうからペラペラと話してくれた。だけど、俺にはもう一つだけ確認しておきたい事がある。それは、あの松本って人との関係だ。だけど流石に初対面でそんな事聞けるわけもない。なので・・・
「そ、それじゃぁ、また小太郎くんに逢いに来てもいいですか?」
もう少しこの人と距離を縮めて探るしかない。
「んふふふ。もちろん。」
まぁ、この人思った以上にお人好しさんぽいから、調査にはさほど時間かからないかもなって俺はタカをくくってた。
つづく