真夜中の虹 41
その夜・・・俺達は手探りではあったけど遂に結ばれた。それが男同士だってことへの違和感も抵抗も一切なかった。でも、誰とでもこんな事出来るかって考えると、やっぱり相手がこの人だからだ。終わった後の気怠さでさえ幸せに感じる。こんな事今までには味わった事のない感覚だった。俺って人として何かが欠落してたのかな?こんなのきっと当たり前なんだろうけど、正直ここまで誰かを好きになったことがなかったからなのかもしれない。
「ねぇ・・・大野さん?」
「ん?あ、その他人行儀な呼び方はもう止めない?」
「えっ・・・」
「智って呼んでよ。おいらもこれからはカズって呼んでもいいよね?」
「う、うん。」
「で?何?」
「俺のこと・・・好き?」
「何?真面目な顔して。怖いな・・・」
「いいから答えて。」
「好きじゃなかったらこんな事しないよ。」
「ホントに?」
「本当だよ。」
「俺も・・・あなたが好き。」
関係を持った途端にこんな恥ずかしい事も平気で言えてしまうんだから不思議だ。大野さんはフフッと微笑みながら再び俺に唇を重ねた。
「さっき、あなた俺に言いましたよね。これからはお互い隠し事はしないって・・・」
「えっ、あ、うん。」
「俺、一つだけあなたに隠してたことが有るんだ。」
「え?」
「実は俺、あなたからマネージャーとして雇われる前は探偵の仕事をしてたんだ。」
「探偵?」
「うん。あなたに初めて会った日、実はあなたのことを調査するために尾行していたんだ。だけど、マンションの前であなたを見失ってしまって、公園であなたが現れるのを待ってたんだけど、いつの間にかうたた寝しちゃって・・・」
「そ、そうだったの?」
「うん・・・お腹痛いって言ったのもあなたに近付く為の作り話だったの。」
「マジか・・・」
「ごめんなさい。」
「だけど、それが仕事なんじゃ仕方ないよな。だけど、どうしておいらのことなんか調査してたの?」
「そこ気になりますよね。でも依頼人の個人情報が関わってくる話だから例え現役でなくても詳しい事は教えられないの。簡単に説明すると、ある人があなたの事を好きになって、どんな人なのか知りたいから調べて欲しいって・・・」
「ええっ?誰だろう?余計気になる・・・」
「フフッ、知る必要ないですよ。ていうか・・・俺、あなたの事調べてるうちにいつの間にか自分があなたの事気になってたんだ。お陰で会社から謹慎処分とか言い渡される始末で。」
「そうだったんだ。」
「だから、あなたがマネージャーとして俺を受け入れてくれた時は本当に嬉しかったの。」
「おいらも翔ちゃんからカズの事を紹介された時はめちゃくちゃ嬉しかったよ。もしかすると、もう逢いに来てくれないんじゃないかって思ってたから・・・」
「確かに謹慎処分とかにならなかったら二度と連絡はしなかったかも。」
「運命を感じるね。」
「あぁー、何か話せたらスッキリしたぁ。俺が隠してたことはこれだけです。」
「それじゃ、おいらも一つだけ話しておこうかな。」
「真琴くんの事?」
「えっ?う、うん・・・」
「言わなくても良いですよ。俺、ある程度知ってますから・・・」
「え?」
「言ったでしょ。俺は探偵だったって。」
「そ、そんなことまで調べたの?」
「俺はそれも全て納得した上でここに来てるの。」
「ゴメンね。こんな大事なこと・・・説明が後回しになっちゃって。」
「だけど、あなたの気持ちが嬉しかったです。俺とゆっくり過ごす時間をこうして作ってくれたんでしょ?」
「本当は東京でそうする筈だったんだけどね・・・ホント、ごめん。」
「もう、謝らないで。俺はあなたに愛されてることを確認できただけでも、それだけでも幸せだから・・・」
この時の俺の言葉に嘘偽りは無かった。ただ、片時も離れずに一緒に居れるなら、どんな障害だって必ず乗り越えられると信じてた。
つづく