真夜中の虹 42
俺達が二人っきりで過ごせる時間はたったの三日間っていう短い時間だった。それでも誰の目も気にせずに甘える事も出来たし、やっと恋人同士らしい時間を過ごすことが出来た。出来る事ならこのまま時間が止まっちゃえばいいのにって本気で思ったりもしたけど、それはどう頑張っても叶うはずもない。そんな幸せな時間はあっという間に過ぎて、いよいよ智のお母さん達が東京に戻る日がやって来た。その日の朝から真琴くんを連れて戻るとの連絡が入り、二人っきりの時間はこれで終了となった。
「さとし、ただいまぁ。」
「お帰り。良い子にしてたか?」
「うん、あのね、ばあちゃんがゲーム買ってくれた。」
「マジか。良かったな。」
「智、ちょっと話が有るの。」
「な、何?」
「いいから、ちょっとそこに座りなさいな。」
「あ、母ちゃん、紹介する。彼がニノだよ。」
「は、初めまして。二宮です。」
「あ、いつも智がお世話になってます。」
「いえ・・・こちらこそ。」
「あんまり時間も無いから本題に入るわね。」
「何だよ?急に改まって。」
「真琴くんの事よ。母さん、真琴くんを一緒に東京に連れて帰ろうと思って。」
「えっ?はっ?な、何で?」
「やっぱり考えたんだけど、あんた一人で真琴くんを育てるなんて、どう考えても無理があるわ。」
「ちょっと待ってよ。だから一人じゃないって。ニノも居てくれるから大丈夫だよ。」
「男が二人居たところで母親の代わりなんて出来やしないわよ。それに二宮君だってマネージャーで来てるのに子育てまで押し付けられたんじゃたまったものじゃないでしょ。」
「そんなのやってみないと分からないじゃん。」
「やってみた、やっぱり駄目でした・・・では済まないのよ。あ、勿論ずっとあたしが面倒みるとは思ってないの。真琴くんが居たんじゃろくに婚活も出来ないでしょ?智が落ち着くまでの間よ。」
「こ、婚活?」
「そう。智もそろそろいい年なんだし、真琴くんの為にもキチンと結婚して家庭を持つことも真剣に考えないと。ね?二宮君もそう思わない?」
「えっ・・・あ・・・はぁ。」
俺のこと、ただのマネージャーだと思ってる。だとしたら、そう考えるのも無理はないけど。だけど、いきなり智の婚活の話は俺にはキツイ。多分、今思いっきり顔に出たと思う。
「何を馬鹿な事言ってんだよ。おいらは誰とも結婚なんてしないよ。だいいち、東京に連れてくなんて・・・真琴本人が嫌がるに決まってるじゃん。」
「そんなこと無いわよ。凄く東京へ行きたがってるもの。ねぇ、真琴?」
「うん、僕東京のばあちゃんちに行ってみたい。」
「何だよそれ?真琴、東京行ったらおいらと会えなくなるぞ。」
「え?ばあちゃんは智がお迎え来るまでって言ったもん。」
「ほら、まだ真琴には言ってる意味が理解出来てないんだよ。姉ちゃんからも言ってやってよ。」
「ええっ?あたしも母さんに任せた方が良いと思う。だって、あんたも二宮君も育児なんてしたことないでしょ?子供育てるって結構色々大変なんだよ。ご飯食べさせとけば何とかなるくらい思ってるでしょ。母さんは子育てのプロだから、安心だと思うな。あたしもサポート出来るしね。」
「そんなぁ。わざわざ沖縄まで引っ越して来たっていうのに・・・」
「先にこっちに相談しなかった智が悪いのよ。」
「ううっ・・・カズ、どうしよう。」
「お、俺もおばさん達が言ってる事が正しいと思う。」
「で、でも・・・」
「悩んでる暇ないわよ。お昼の便で帰るんだから。急いで真琴くんの荷物を纏めてちょうだい。」
「マジで言ってるの?」
「智、とにかく俺荷物纏めて来るよ。」
智も俺も複雑な気持ちだった。だってさっきまで二人で真琴くんのこと育てていく覚悟でいたんだもの。おばさんやお姉さんの言うことは決して間違いではない。素人の俺達が育てるより子育てのプロであるおばさんに任せた方が真琴くんの為ではある。だけど、それはあくまでも智が婚活してキチンと家庭を持つという前提のもとに出した結論だってこと。その未来像の中に俺は1ミリだって含まれていない。こんな上がったり下がったり・・・まるでジェットコースター並みのメンタル、正直付いて行けそうにないって俺は思いながら真琴くんの荷物をトランクケースに詰めていった。
つづく