真夜中の虹 43
結局、その日の午後の便で真琴くんはおばさん達と東京へ行ってしまった。子育ての経験がない俺達は最後までそれを引き留めることは出来なかった。おばさん達と真琴くんを見送り、空港から自宅に戻った俺達は完全に拍子抜けになり、暫く二人で呆然としていた。
「あなたこれからどうするの?」
「え・・・」
「真琴くんが居なくなったんじゃ、ここで暮らす意味なくない?」
「うん、まぁ・・・」
「なんなら俺達も東京に戻る?」
「少し考えさせてくれ。」
考えさせてくれ・・・か。まぁ、確かにおばさんの考えだと智には結婚相手を早急に探して真琴くんを引き取って欲しいんだろう。だけどそんなこと言われたって、こればかりは思ってるほど簡単にはいかないと思う。智の気持ちの問題もあるし、俺とのことだって・・・。
東京へ戻れば、呑気に今まで通りってわけにはいかないだろう。きっとおばさんと顔を合わせる度に結婚はまだかって急き立てられるだろうし。だからといってこのまま沖縄に居れば、結局はおばさんに真琴くんを押し付けて逃げてると思われるのがオチだ。こうなってくると、俺は・・・
「ねぇ・・・俺が居ると、あなたの婚活の邪魔になる?」
「えっ?もしかして母ちゃんが言った事を真に受けてる?」
「そりゃあ・・・」
「おいらは婚活も結婚も考えてないよ。」
「だけど、そうも言ってられないんじゃないの?」
「カズはおいらが他のヤツと結婚しても平気なの?」
「平気なわけないよ。」
「そうだろ?」
「でも・・・おばさんが言うことも分からなくもないっていうか・・・」
「おいらだって分からないわけじゃ無いよ。だけど・・・結婚ってそういう事じゃないじゃん。」
「まぁね。」
「それに、おいらにはカズがいるし。」
「だから俺が邪魔になるんじゃないかって思って・・・」
「どうしてそんなネガティブな考え方しか出来ないかな。」
だって・・・不安なんだもの。口には出さなかったけど、ギュッと唇を噛んだ。
「ゴメン。おいらが母ちゃんにカズとの関係を説明しておかなかったからいけないんだ。」
「説明したところできっと理解しては貰えないよ。」
「あー、もうどうすりゃいいんだよ。」
智はクッションを抱いてソファーに倒れ込んだ。
「ねえ、とりあえず東京に戻ろうよ。東京ならばあなたの実家も近いからきっとおばさんも安心するんじゃない?」
「うぅーん・・・」
「東京の元居たマンションに真琴くんも呼んで3人で暮らすの。」
「うーん・・・」
「確かにこっちは環境としては子育てには適してるとは思うけど、いざという時に身内も傍に居ないのは心細いでしょ。おばさんもそれを心配してるんだと思うよ。」
「そっか・・・いっその事向こうに家買うか。」
「えっ?」
「流石にあのマンションは3人で暮らすのには手狭だよ。」
「家、買うの?」
「うん、どんな家にする?カズが決めてくれていいよ。」
「お、俺?」
「カズ、早速航空券手配して。明日俺らも東京戻るぞ。」
「あ、明日?」
「え?何か都合でも悪い?」
「い、いや。分かりましたよ。明日の便手配しとくよ。」
冷静に考えると、俺って結構この人に振り回されてる。沖縄への移住の話の時も突然で急な話だったし。以前の俺ならば絶対に人の言いなりになんてならなかった。でも今は完全に智に合わせてる。東京へ戻ることは俺が提案したことではあるけど、何もそんなに慌てなくたっていいのに。どうしてだか自分にもわかんないんだけど、真琴くんとの同居に関してはどうしても不安が過ぎる。色んな事が思い通りにならない気がしてならない。俺の考え過ぎ?・・・だったらいいけど。
つづく