真夜中の虹 44
それから俺達は東京へ戻り、新居探しを急いだ。智の実家からそう離れていない場所に在る一軒家の中古物件が気に入ってそこに決めた。俺が考えていた通り、実家の傍ってこともあって、おばさんも真琴くんを引き取ることを納得してくれた。勿論、おばさんとしては智が婚活することを望んでいることに変わりはなさそうだけど、それは智自身が時間を掛けて説得する、俺との事もなるべく早く説明するとは言ってくれてる。引っ越しとかで多少の時間は掛かったけど、真琴くんを迎えてようやく3人の生活が始まった。子供中心の生活にはなったけど、智は以前にも増して優しいし、昼間は保育園に通ってるから一日中子供の面倒みるってわけじゃ無いし、俺としての居心地は抜群に良かった。そんな生活にお互い慣れてきて三か月位経ったある日・・・
「ごめん、カズ。おいらちょっと体調悪い。今日の保育園の送迎頼んでいいかな。」
「えっ?マジで?」
目の前でゴホゴホと苦しそうに咳をする。俺は慌てて体温計を智の額にかざした。ピピピッ・・・
「うわ、39℃もあるじゃん。大丈夫?・・・じゃないよね。OK,保育園は任せて。」
「す、すまない。」
「それはお医者に診せた方がいいよ。」
「うん・・・大丈夫。薬飲んだし、寝てたら治るよ。」
「駄目駄目、悪化したらどうするの。待ってて、真琴送ったら病院連れてくから。真琴、今日は俺と保育園な。」
「ええっ?さとしは?」
「風邪引いちゃったらしいの。真琴に移ったら大変だから俺が連れてくから。ほら、さっさと支度しな。」
「はぁい。」
俺は真琴の手を引いて保育園に向かった。
「おはようございます。」
「あら?真琴くん、今日はお父さんは?」
「さとしは病気。」
「お前さ、何でさとし?ちゃんとお父さんって言いなさいよ。」
「だってさとしはさとしだもん。」
「大野さんご病気なんですか?」
「え?あ、ええ。ただの風邪だと思います。真琴は熱測ったけど大丈夫でした。」
「えっと・・・失礼ですけど、あなたは真琴くんのご親戚か何かですか?」
「俺?俺は・・・マネージャーです。大野さんの・・・」
流石に恋人ですっては言えないよな。
「マネージャーさんですか。すみません、一応初対面の方にはご連絡先等を覗う様になってまして・・・。」
「あ、そりゃそうですよね。」
「こちらにお名前とご連絡先をお願いしても宜しいですか?」
元々真琴の保育園の送迎は智が一人でやっていたから、得体の知れない俺が連れて来たりすれば不審に思われるのも仕方ない事。俺は渡された用紙に名前と携帯番号を記入する。
「先生、おはようございます。」
「あ、優芽ちゃんおはよう。」
「ねぇねぇゆめちゃん、ぼくね、今日はカズに送ってもらったんだよ。」
「カズってだあれ?」
その子はツインテールのめちゃめちゃ可愛い女の子だ。大きい黒眼をクリクリと見開いて俺の顔を不思議そうに見てる。
「君、優芽ちゃんって言うの?真琴と仲良くしてあげてね。」
「真琴くんのパパは?」
「今日はお休みなんだ。」
「ふうん・・・」
少し遅れて優芽ちゃんの母親らしき人が現れて先生と話してた。あれは母親で間違いないな。結構な美人。そんなことを考えていたら、その美人の母親と目が合って、俺は慌てて会釈した。
「真琴、帰りも俺が迎えに来るから良い子にしてろよ。」
「はぁい。」
俺は真琴を預けると、急いで智の待つ自宅へと戻った。
「ただいま。智、具合はどう?」
「うぅぅ・・・」
「大丈夫じゃなさそうだね。とにかく病院へ行きましょう。真琴にも移るとまずいからさ。」
「う、うん。」
「この近くに病院ってあったかな?ちょっとおばさんに聞いてみるか。」
俺は智のお母さんに電話して病院の情報を仕入れた。
「あ、もしもし、おばさん?おはようございます。二宮ですけど・・・この近くで上手な医者って何処ですか?・・・あ、いえ、真琴じゃなくて大野さんが高熱出してて・・・あ、大丈夫です。俺が連れて行くんで。はい、また連絡します。」
俺はぐったりした智を何とか車に乗せておばさんに教えて貰った総合病院へと急いだ。
つづく