真夜中の虹 47
子供達に夕飯を食べさせて、暫く絵本なんかを読ませていたら優芽ちゃんのお母さんが迎えに来た。
「今晩は。今日は無理なお願いをしてしまって本当にすみませんでした。」
「いえ、こちらこそ今朝は智がお世話になりました。」
「大野さん、その後お加減はいかがですか?」
「お陰様で熱も下がったみたいです。とはいえまだ寝てるんで、ご挨拶には出れませんけど宜しく言ってました。」
「そうですか。良かった。あっ、これつまらないものですけど、良かったら皆さんで召し上がって下さい。」
「あ、お気遣いとか良かったのに。」
「ママ!」
「優芽、良い子にしてた?」
「優芽ちゃん、めっちゃ良い子でしたよ。」
「そうですか?本当にありがとうございました。また改めて御礼に伺いますんで、大野さんにも宜しくお伝え下さい。」
「えっ?ゆめちゃん、もう帰っちゃうの?」
「真琴くん、今日は優芽と沢山遊んでくれてありがとう。また遊んでね。」
「あっ、もう外暗いから俺送りますよ。」
「僕も行く!」
俺は真琴と優芽ちゃんの親子を送る事にした。真琴は優芽ちゃんと手を繋ぎ仲良く俺達の前を歩いた。
「ゆめちゃん、また遊びにおいでね。」
「うん!」
「カズ、僕いい事思い付いたよ。ゆめちゃん、もううちの子になったら良いのにね。」
「は?何言ってんだ。」
「だって、そうすればずぅーっとお家に帰らなくても済むでしょ?」
「また遊びに来てもらえばいいじゃん。なんか、すみません。真琴は優芽ちゃんの事がお気に入りみたいで。」
「うふふっ・・・優芽もいっつも真琴くんの話をするんですよ。」
「え?マジで?相思相愛じゃん。」
「そうだ!さとしとゆめちゃんのママがけっこんすればいいんだ。」
「ま、真琴、突然何言い出すんだ?」
「だって、そうすれば僕とゆめちゃんは同じ家に住めるでしょ?」
子供の考える事ときたら・・・そんな単純な話じゃないだろ。俺の真横でそれを聞いて、優芽ちゃんのお母さんはクスクスと笑ってる。
「ね?そうでしょ?」
「あのなぁ、優芽ちゃんのお母さんにも選ぶ権利あるんだぞ。」
「ママは真琴くんのパパきらい?ゆめは真琴くんのパパ好きだよ。」
「えっ?き、嫌いじゃないけど、真琴くんのパパがきっとご迷惑よ。」
「さとしはごめいわくじゃないよ。だって、ゆめちゃんのママは美人だもん。ね?カズ。」
「えっ・・・」
俺に聞くなよ。
「カズ?」
「あ、う、うん。」
美人っていうところは間違いじゃないから否定することもない。
「あのねママ、カズおじちゃんは真琴くんのパパの弟なんだって。」
「えっ・・・あ、そうだったんですね。」
「あー、いや・・・その・・・」
まさかここでその報告する?
「御兄弟でとても仲が良いんですね。」
「え、ええ・・・まぁ。」
さすがに色々面倒くさくなって、もうここでは否定もしなかった。他人にどう思われようが俺は平気だから。
「あ、ここです。わざわざ送って頂いて有難うございました。」
「へえ。結構近いんですね。それじゃ、僕たちはここで失礼します。」
優芽ちゃんとお母さんを自宅へ送り届けて俺達は自宅に戻った。
「はぁー、疲れた。真琴、今夜は俺と風呂入るぞ。」
「さとしがいい。」
「智は病気だから治るまでは俺とで我慢するの。」
真琴は完全に智に懐いちゃってるから、こういう非常事態の時は大変。
「さとしはいつ病気なおるの?」
「二、三日もすれば治るよ。」
「さとしが元気になったらね、僕はさとしにお願いするんだ。」
「えっ?お願い?」
「うん。ゆめちゃんのママとさとしがけっこんしてってお願いするの。」
「あ、あのなぁ・・・智には俺がいるじゃん。」
「それじゃ、カズがけっこんしてくれる?」
「は?誰と?」
「ゆめちゃんのママに決まってるでしょ。」
「いやいやいや・・・あのね、真琴・・・」
「ん?なぁに?」
「あ、いや、何でもない。」
子供相手にムキになる事でも無いか。そんな話を智がまともに聞くわけがないしな。真琴は結婚の意味も分からずに言ってるだけだ。ただ少し心配なのは、あの優芽ちゃんのお母さんはシングルマザーだった。それから、真琴も思った以上にマジで言ってる。最近、ふと考えてしまう事が有る。俺はどう頑張ったところで真琴の母親代わりにはなれない。これまで何も考えずに一緒に暮らしてはいたけれど、二人にとって俺はどんな存在なんだろう。
つづく