真夜中の虹 48
それから数日後、智の体調はすっかり元に戻った。今日から通常通り、真琴の世話も智が復帰してくれる。
「おはよう。カズ、色々迷惑掛けてすまなかったな。」
「あ、おはよう。」
「今日はおいらが家のこと全部やるから、カズは一日ゆっくり好きな事しなよ。」
「え?いいの?」
「うん。たまにはカズも息抜きしないと、おいらみたいにダウンされても困るもんな。」
「それじゃあ、お言葉に甘えようかな。久し振りに実家に帰って来ても良い?」
「そうだよな。東京戻ってきて一度もカズは帰ってなかったもんな。」
「おふくろと電話はしょっちゅうしてたんだけど、たまには顔見せないと心配してるみたいなんだ。」
「ゆっくりして来なよ。なんなら泊ってくれば?」
「今日中には戻りますよ。」
「どうして?せっかくだから泊ってくればいいのに。」
「うーん・・・」
相変わらず鈍い人だな。風邪が移るとマズいって事で、ここ1週間程寝室を別けて、俺はずっと真琴と寝てた。やっと今夜から一緒に寝れると思ってたのに、泊まれってどういう事よ?智は俺が居なくても案外平気なんだ。それって俺からすると結構ショックなこと。
「そこまで言ってくれるのなら・・・」
本当はちょっと親に顔を見せて直ぐに帰るつもりだったんだけど、確かにここんとこずっと家政婦みたいな生活続いてて少しお疲れ気味だったのも事実。智が言う様にちょっとだけ骨休めしないと、確かに身が持たないかもって俺は思った。
「あっ、そうそう。カズ、悪いんだけど実家に戻るんだったら、ついでに潤のところに寄れる?」
「えっ?松本さん?いいけど・・・」
「じつはこないだ電話が有ってさ、急ぎの仕事が決まったらしいんだ。」
「へぇ・・・そうなんだ。久し振りですね。」
「おいらが直接行くつもりだったんだけど、急ぎ案件みたいだし、カズが大まかな内容聞いてくれると助かる。」
「OK。それなら松本さんにあなたから連絡しておいて。俺、お昼までには松本さんのオフィス行けるんで。」
「分かった。助かるよ。」
急な展開ではあったけど、マネージャーとして動くのって久し振りでちょっと嬉しくもあった。俺は身支度を済ませて車で松本さんのオフィスへと向かった。
「松本さん、ご無沙汰してます。」
「おっ、ニノ久し振りだね。どう?新しい生活には慣れた?」
「ええ、何とか・・・」
「真琴くんも元気?」
「元気有り過ぎ。」
「あはは。そりゃ5歳児だもんな。わんぱく盛りだよね。」
「わんぱくだし、おませだし、もうマジで大変。」
「いやぁ、良く頑張ってるよ。俺なら3日と持たないだろうな。それより大野さん熱出して寝込んでたらしいけど、大丈夫?」
「うん、もう大丈夫みたい。あの?新しい仕事って?」
「あぁ、そうそう。札幌でさ、個展を開いて欲しいって依頼が来てるんだ。」
「札幌?」
「うん。ほら、コンテストの審査員だった人がめちゃくちゃ智の絵を気に入ってくれてね。」
「あー、あの時の・・・」
「世界でも有名なクリエーター5人、その中の一人に大野さんの事を選出してくれたんだよ。札幌に新しい美術館が出来るんで、そのオープニングセレモニーのイベント的な展覧会なんだ。」
「へえ、何か凄いね。で?期間は?」
「搬入から搬出まで含めて約3週間くらいかな。」
「えっ?そんなに?」
「うん。で、これがその美術館の外観と見取り図・・・」
「へぇ。めちゃくちゃお洒落ですね。」
だけど、そんな長期間真琴を置いて行ける訳ないよな。
「これ、本人はこの間ずっと居なくちゃ駄目なの?」
「勿論。」
「そうなるとちょっと、無理じゃないかな・・・」
仮に俺が真琴と留守番するにしても、3週間は流石に長すぎる。
「え?何で?」
「真琴が・・・」
「ニノが見ておくわけにはいかないの?」
「3週間でしょ?流石に無理じゃ無いかな。真琴は俺より智なんだよ。」
「そうなの?だったら大野さんの実家にお願いするとか・・・」
「う、うん。」
「今後はこういった感じの仕事も増えてくると思うよ。大野さんともよーく話し合って、真琴くんの預かり先をキチンと確保しておいた方が良いと思うけど。」
確かに松本さんの言う通りだと思った。小さい子供居たんじゃ正直身動きが取れない。こういった仕事の度にあっちこっちたらい回しされてたら、真琴にもストレスになるはず。とりあえず、俺は松本さんから美術館の出展に関する資料を受け取り、この話はひとまず保留ということでその場での返答は避けた。
つづく