真夜中の虹 49
札幌かぁ・・・めちゃくちゃ良い話ではあるけど、今回は流石にあの人も断るだろうな。だけど断るってことになるなら、窓口になってくれてる松本さんにも迷惑が掛からない様に、出来るだけ早く返事をした方が良いに決まってる。やっぱり今日は実家に泊まるのはやめておこう。一先ず俺は実家へ帰って親に顔を見せてから、夕方6時過ぎには俺は智の家に戻った。
「ただいまぁ。」
玄関を開けたら、見慣れない女性の靴があった。あれ・・・おばさんでも来てるのかな?そして、玄関まで俺を出迎えてくれたのは小太郎だけ。
「小太郎、ただいま。誰かお客さん来てるの?」
小太郎に問い掛けながら、俺はリビングの方に足を進めた。リビングのドアを開けると、何やら美味しそうなご馳走作ってる匂いが漂っている。
「あれっ?カズ?どうしたの?」
ソファーに腰掛けてた智が俺に気付いて振り返る。そしてその後、真琴とあの優芽ちゃんが俺の方に駆け寄って来た。
「カズだぁ。おみやげは?」
「カズおじちゃん、お帰りなさい。」
「土産なんて有るわけないじゃん。ていうか・・・ゆ、優芽ちゃん?どうして?」
「そんなことより、今日は泊まるんじゃなかったの?」
「えっ・・・あ、うん、そのつもりだったんだけど、ちょっと急いだほうがイイかなって思って・・・」
「何?仕事?」
「あ、うん・・・仕事の話だけど・・・ていうか、また預かったの?優芽ちゃん。」
「違うよ。今日は優芽ちゃんのお母さんも一緒だよ。」
「えっ?そうなの?」
「今日はカズが居ないって言ったら、こないだの御礼に夕飯を作ってくれるって・・・」
「ふーん・・・」
俺が居なくたって夕飯くらい何とかなるでしょ。御礼って、意味分かんないよ。
「あっ、カズの分も足りるか聞いてみるよ。」
「いいよ。俺は実家で済ませてきたから。一応挨拶しとこうかな。キッチンにいるんだよね?」
「あ、うん・・・」
本当は夕食は済ませてなんかいないけど、留守中に勝手なことされた感じでどうも俺的に面白くなかったりした。
「今晩は。」
「え?あっ、ビックリした。戻られてたんですね?大野さんから今日はお留守だとお聞きしてたから。何かすみません、勝手に上がり込んでしまって。」
「いえいえ。どうせ智が無理言ったんでしょ?うわぁ、美味そうなハンバーグですね。」
「あ、良かったら弟さんも食べられませんか?もう直ぐ出来るんで。」
「えっ?・・・あ、大丈夫、俺は夕飯済ませて来たんで。」
弟さん・・・か。俺は確かにこの前それを否定しなかったんだもの、そうなるよね。
「何かお手伝いしましょうか?」
「あ、いえ、もう殆ど出来てますから。」
「そう?俺も疲れてたから今夜はデリバリー頼もうかと思ってたんで助かりましたよ。」
「あんまりお料理は得意じゃないんですけど、少しでもお役に立てて良かったです。この前、優芽がお世話になって、なかなか御礼に来れなかったんですけど、今日お迎えの時間がたまたま大野さんと一緒だったので・・・」
ま、本人も御礼だと言ってるし・・・別にそれ以上深い意味は無さそうだし。
「やっぱり、俺も頂こうかな。見てたらお腹空いてきたし。」
「沢山作ってあるんで是非。」
結局は空腹に負けて俺も一緒に食卓を囲んだ。
「いただきまーす。」
「うわ、これめっちゃ美味い。」
智がそう言って満足そうに料理を頬張る。それを見て彼女はホッとした表情を見せる。
「で?急ぎの話って?」
「え、あぁ、そうそう、松本さんから何処まで聞いてるの?札幌だってよ。美術館のオープニングセレモニー、しかも3週間も・・・」
「3週間も?」
「無理でしょ。」
「無理かなぁ・・・」
「お断りするなら早い方が良いと思ってさ。」
「母ちゃんに一度聞いてみるわ。」
「でも3週間だよ?真琴が流石に寂しがるんじゃない?」
「うぅーん、だけど仕事だからなぁ。そんな簡単に断れないんじゃないかな。な、真琴、ばあちゃんちで暫く留守番出来るか?」
「えっ?さとしどこか行くの?」
「仕事でちょっと遠くに行かなきゃならないんだ。」
「ぼくも一緒に行きたい。」
「真琴は保育園あるだろ。おいらは遊びに行くんじゃないんだよ。」
「真琴、俺と留守番する?」
「ええっ~やだぁ~」
「あの・・・もしも宜しければ、真琴くん、うちで預かりましょうか?」
「えっ・・・」
「うちも子供の面倒は殆ど母に任せてるんですけど、優芽も真琴くんが一緒だと喜びますし・・・」
「本当ですか?」
「さ、智、幾ら何でもそれはマズいよ。」
「どうして?優芽ちゃんのお宅なら真琴も嬉しいだろ。」
「いや、でも・・・2,3日の話じゃないんだよ。」
「ぼく、ゆめちゃんちでならお留守番してもいいよ。」
「ほら、真琴もそう言ってるし。」
「でも・・・」
ここで気が進まないのは、この俺一人だけ。相手も快く受け入れてくれると言ってるのに、俺は例えようのない、とても複雑な心境だった。
つづく