真夜中の虹 5
「・・・で?何か分かったか?」
「あの人小野って名前じゃなかったよ。大野さんっていうらしい。」
「え、マジで?」
「杏奈さん、多分聞き間違えたんじゃない?」
「それにしても悪かったよ。俺のせいで徹夜したんでしょ?」
「まぁね・・・でも向こうから来てくれたから探す手間省けたし。」
「向こうから?」
「それが思わぬ展開になっちゃって。」
「思わぬ展開ねぇ・・・ところで杏奈ちゃんに脈無いって言ってたけど、どういうこと?」
「そうそう、相葉さんあの時一緒に店に来てたイケメン覚えてる?」
「ああ・・・覚えてるよ。確か松本って言ってたな。」
「なんかさぁ、店出て直ぐに俺聞いちゃったのよ。」
「聞いたって何を?」
「なんていうか、聞いちゃマズい様なこと。」
「へっ?」
「とにかく普通じゃなかったんだよ。」
「普通じゃないというと?」
「あの会話から考えると、二人は同性愛。」
「ど、同性愛?ってことは、あの二人付き合ってるの?」
「いや、まだ確認したわけじゃないから確定じゃないよ。」
「でもさ・・・それでいうなら杏奈ちゃんだって中身は男なんだから、全然脈無いって訳でもないよね?」
「えっ・・・あっ、そうか・・・いや、でも多分今は無理だと思うよ。なんか話が複雑そうだったし。」
「ええーよく分かんないけど、それは将来的に可能性ゼロという訳じゃ無いよね?結婚までしてるとかじゃないだろ?まさか一緒に住んでるの?」
「いや・・・そんな感じではなかったけど。まぁ、その辺りも詳しく調べてみるけど。」
「そっかぁ。そうなるとまだまだ時間掛かりそうだね。」
「いや・・・そうでもないかな。俺今回はなかなかツイてるみたいだし。近々また彼の家にお邪魔することになってる。」
「え?何それ?おいおい、まさか正体バレてないだろうな?」
「この俺がそんなヘマすると思う?」
「ニノの事だから大丈夫だとは思うけど、調査対象者に必要以上に接近するのはどうかと思うよ。」
「そんな事くらいあなたに言われなくても分かってますよ。」
「もうこれだけ情報入手したんだからこの件終わらせてもいいんじゃない?俺から杏奈ちゃんには報告しとくよ。」
「相葉さんも心配性だな。大丈夫だよ。あの二人の関係だけ分かれば俺の任務は終了だから。杏奈さんに報告するのはいいけど、そもそも杏奈さんはあの大野って人と付き合いたいからうちらに調査依頼してきたんでしょ?完全片想いになるかもしんないわけだから、知っててそこをちゃんと伝えてあげないのはルール違反だし、可哀想だよ。」
「珍しいな・・・」
「え?」
「ニノって先の事は知った事じゃないって主義だと思ってた。」
「そ、それは勝手にあなたが俺に抱いてる印象でしょ?俺だって良心くらいありますよ。」
「分かったよ。それじゃもう少しだけ調べてよ。報告はハッキリするまで待つよ。」
確かに、相葉さんの言う通り。俺は仕事に私情を挟んだ事は一度もない。依頼主がどんな人でも先の事は知ったこっちゃない。それなのに調査続けるって、自分でもちょっとビックリしてる。何かあの二人のことが気になってるのは確かだ。杏奈さんに報告する為というより自分が知りたいと思ってる。変なの・・・。
それから数日後、俺は大野さんに貰った名刺の電話番号に連絡して、再びあのマンションを訪れる事にした。一応表向きはあの日お世話になった御礼という事だからケーキ屋で手土産用の焼き菓子と犬用のジャーキーを買って、大野さんのマンションへと向かった。
「こんにちは。お休みの日にすみません。」
「ううん。どうせ暇だから・・・」
「あ、これつまらないものですけど・・・こないだの御礼です。」
「御礼なんていいのに。おっ、小太郎にも?」
「ええ。」
「小太郎、良かったなぁ。」
「何が良いか迷いましたよ。」
「これ小太郎大好物だよ。」
「ホントに?良かったぁ。」
「それにしても、もう来ないかと思った。」
「え?あー・・・すみません、本当はもっと早く来たかったんだけど色々立て込んでたもんで・・・」
「ねえ、二宮君だっけ?お昼まだだよね?」
「えっ?あ、はい。」
「一緒に作って食べようか?」
「お、俺料理はあんま得意じゃないですよ?」
「んふふ。それじゃ手伝って。」
「は、はい・・・」
「そこに出してる野菜切ってくれる?」
「あ、これ?」
大野さんに言われるまま、キッチンに入って料理の手伝いを始めた。今日の目的はとにかく距離を縮めるって事なんだけど、どちらかというと大野さんの方が積極的に俺との距離を縮めてるように感じた。
つづく