真夜中の虹 50
優芽ちゃん親子が帰って行った後、真琴を寝かしつけてから、俺と智は暫く札幌行きの事で話の続きをした。
「松本さんも言ってましたけど、今後はこういった遠征絡みの仕事も時々入るから、真琴の預かり先もしっかり話し合っておいて欲しいって・・・」
「まぁ、もう少し大きくなれば理解できるだろうけど、今は説明してもまだわけわかんないだろうしね。せめて小学校に上がってくれたら状況も変わってくるとは思うけど。」
「うん・・・だからさ、今回の札幌も諦めようよ。」
「諦める?何で?それは優芽ちゃんのお母さんが協力してくれるって言ってたじゃん。」
「そんなの社交辞令に決まってるじゃない。他人の子を3週間もだよ。本気で言ってるとでも思ってるの?」
「え?本気でしょ、あれは。」
「嫌なんだよ・・・」
「何が?」
「これ以上あの人に関わるの。」
「どうして?」
「真琴から聞いてないの?」
「は?何を?」
「真琴は智と優芽ちゃんのママに結婚して欲しいんだよ。」
「けっ、結婚?」
「なんだ、あいつもう忘れてんのか。やっぱり子供だな。」
「っていうか、そんなの真に受けてんのか?」
「べつに真に受けたわけじゃないよ。だけど、優芽ちゃんちもお父さん居ないみたいだし・・・」
「ちょっと、待った!」
智はそう言って浮かない表情してる俺の顔を両手で優しく包んだ。俺の心情を見抜いたかのように、フフッと笑うと、そのまま顔を近付けて来るから俺は自然と目を閉じた。柔らかい唇が小さく音を立てながら俺の唇を何度も何度も啄んだ。
「んっ・・・なんだよ・・・人が真剣な話してるの・・・に。」
「おいらはカズのことが好きなの。こんなに好きなのにさ・・・信じられないの?」
「そうじゃないの。そうじゃないけど・・・」
「結婚しちゃう?俺達・・・」
下から覗き込むように俺の目を見つめる仕草はちょっとふざけてるようにも見えた。
「えっ・・・」
「そうだよ。うん、結婚しよう。」
「あ、あの・・・」
この人言ってる意味分かってんのかな?
「何だよ?おいらとじゃ嫌か?」
「こ、子持ちなんかとは嫌です。」
「は?」
「冗談ですよ。だけど、俺ら男同士だよ。結婚なんてできっこないじゃん。」
「結婚なんてどうせ紙切れ1枚の話じゃん。よし、決めた。次の日曜日カズの実家に挨拶しに行くぞ。」
「えっ?」
「お父さんとお母さんにカズの事貰いに行くんだよ。」
「ちょ、ちょっと待って下さいよ。そんな急に・・・」
「こういうことをハッキリしないからカズが常に情緒不安定なんだよ。それはおいらのせいだって気付いた。だからおいらには責任が有る。」
「いや、あなた何言ってるか分かってる?うちの親に逢いに行ったところですんなり許してくれるわけがないよ。それに、仮に許してくれたとしましょうか?そうしたら、あなたマジで本当に誰とも結婚出来なくなりますよ?それでも良いの?」
「いいよ。」
「めっちゃ即答だな。少しは考えてから答えろよ。」
「ていうか、おいらはカズ以外の人と結婚する気なんか無いよ。カズは?」
「お、俺は・・・」
俺だって智が好きだ。でも、真琴が同性愛なんて受け入れられるわけがないし、正直言うとうちの身内の心配なんかより、真琴が俺を母親代わりとして認めてくれるとは到底思えないんだよな。色んな意味で自分に自信が持てないから直ぐに首を縦に振れないし、智の問い掛けに答えられずにいると、智はそんな俺を再び見抜いてか、俺の身体をソファーに組み敷きながらそっと口づけた。そんな優しいキスをされたら、身も心もギュッと鷲掴みにされたみたいな感覚に陥るに決まってるのに・・・頭の片隅ではまだどこか躊躇っていながら、俺の身体は素直に智を求めてる。せめて二人だけの関係ならば、きっとこんなに悩まなくても済むのに・・・
つづく