真夜中の虹 52
結婚なんて俺は形式的な事はどうでも良かった。日本ではまだそういうのって法律でも認められてるわけではないし、俺としては例えどんな形であっても智と一緒に居れたらそれで良いんだ。だけど、智は家族や周りの人間に二人の関係を打ち明ける事で、俺の中にある変な不安を払拭してくれようとしている。俺の実家を出た後、智は直ぐに自分の実家にも話に行くと意気込んでいた。自分の親に関して言えば、俺が事前に智や真琴のことを話しておいたからわりとスムーズに話が出来たと思っていて、智が俺みたいに事前に両親に話をしてるかというと、多分何もしていない。だから、俺は全力で智の実家に行く事を止めた。
「何でだよ。こういうことはさっさと済ませちゃった方が良いのに。カズはさ、おいらと結婚するの嫌なのか?」
「そ、そんなこと言ってないよ。」
「だったら・・・」
「ねえ、さとしはどうしてゆめちゃんのママと結婚しないの?」
「えっ・・・あのな、真琴・・・」
「ほら、先ずはあなたの両親よりも真琴に説明しないと。」
「結婚って意味わかってんのか?」
「先ずはそこから教えてあげないとね。さっ、今日はとにかく帰りましょう。」
ひとまず、真琴の一言に助けられた形でその場は回避できて、俺達は一旦自宅へ戻る事にした。自宅へ到着すると、玄関前に見慣れない車が停まっていた。俺がガレージに車庫入れ済ませて車から降りると、その停車していた車の運転席から一人の男性が降りて来て俺達の方を見て頭を下げた。
「誰?知ってる人?」
「いや、知らん。」
それからゆっくりと俺達の方に近付いて来た。
「あの、こちら大野さんの御自宅で間違いないですよね?」
「あ、はい。そうですけど、何か?」
「大野智さんは?」
「おいらだけど?」
「突然失礼します。私、弁護士の三浦と言います。」
「弁護士さん?」
「ええ。今、少しお時間御座いますでしょうか?」
「何?」
「立ち話もあれなんで、中に入って貰えば?」
「うん・・・」
「突然押し掛けて申し訳ありませんね。」
弁護士が智に何の用なんだろう?取り敢えず、その三浦っていう弁護士をリビングに通して俺はお茶を準備した。
「あ、お話が済んだら直ぐにお暇するんで、どうぞお構いなく。」
「えっと、それで?おいらに何の用でいらしたんですか?」
「こちらが真琴くんですか・・・」
「えっ?あ、うん、そうだけど・・・」
「実は、真琴くんの母親である亡くなられた河村早苗さんの、生前お付き合いのあった遠藤啓二さんが真琴くんの実の父親だと申し出がありまして、真琴くんを是非引き取りたいと言っておられます。」
「え?何言ってるの?真琴はおいらの子供だよ。」
「勿論、色々事情は伺ってます。ですが・・・」
「悪いけど真琴は誰にも渡さない。」
「大野さん・・・」
「お引き取り下さい。」
「もう少しだけお話を聞いてくれませんか。」
「誰が何を言おうが真琴はおいらの子だ。」
「でしたら、一度DNA鑑定を受けては貰えないでしょうか。それでキチンと真琴くんが大野さんの子供であるという証明が出来れば遠藤さんもキッパリ諦めると思います。」
「何で今頃になって・・・」
「遠藤さんも早苗さんが亡くなった直後から真琴くんの行くへを探す為にあらゆる施設を訪ねて回られてたのは事実なんです。大野さん、裁判で親権を争ったところでDNA鑑定は必ず必要になってきます。遠藤さんも、これまで真琴くんを大事に育てて下さった事に感謝はされてますし、大野さんと争うつもりは無いと言われてるんです。是非その辺も踏まえてご理解とご協力をお願いします。」
そう言って弁護士の三浦って人は俺達に自分の名刺を渡すと、深々と頭を下げて帰ってしまった。
「さとし、今のおじちゃん誰?」
「真琴・・・」
智は感極まって、真琴を力一杯抱き締めた。真琴が大野さんの本当の子じゃない?それって一体どういう事?
つづく