真夜中の虹 54
確かに俺の言い方も少しきつかった。それは自分でも分かってた。だけど・・・今回は流石に我慢出来ない。俺は智とは目も合わせず、二階の部屋に上がり、急いで必要な荷物を鞄に詰め込んでいく。何に対してか分かんないけど、悔しくて悔しくて勝手に涙が溢れてきた。
「カズ・・・どっか行っちゃうの?」
「えっ・・・」
真琴が泣きそうな声でそう俺に話し掛けてきた。俺は慌てて自分の涙を拭った。
「ぼくのせい?ぼくのせいで・・・けんかしちゃったの?」
「真琴・・・違うよ。真琴は何にも悪くない。」
「それじゃ、どこにも行かないよね?」
「ちょっと・・・旅行に行って来るだけだから・・・」
「ほんとうに?」
「ああ・・・良い子にしてろよ。」
子供に嘘を付く、俺は最低の大人だな。
「じゃぁな・・・」
俺は真琴の頭をぐりぐりと撫でて鞄を抱えた。玄関まで見送りに来たのは、不安そうな表情の真琴だけ。智は現れもしなかった。俺は心の中で「お世話になりました。」と呟いて家を出た。
家を出たのはいいけど、さっき親の顔を見て結婚承諾貰ったばかりなので流石に実家には戻れない。困ったな・・・一先ず俺は一晩ビジネスホテルで凌ぐことにした。だけど、数日で戻る家出少年というわけではないし、俺は智のマネージャーやってたけど、特に毎月手当て貰っていたわけじゃないんで、貯金だって僅かしか無くて、こんなことになるんならキチンと契約書交わしてお給料制にしとくべきだったって、ちょっとだけ後悔した。とにかく、働く先と住む場所を探さないと・・・俺はホテルのベッドに寝転び、スマホを開いた。
「あっ、そうだ・・・」
連絡先の一人に、頼れそうな名前を見付けた。俺は直ぐさまその電話番号をタップした。
「あ、もしもし・・・今話せる?」
「え?ニノ?久し振りだね。どうしたの?」
「あなたさ、独立したんだよね?」
「あ、うん。それがどうかした?」
「俺の事雇ってくれる?」
「えっ?何?それ本気で言ってんの?」
「うん、それからさ・・・早急に部屋探してるんだけど・・・」
「ニノ?大野さんところは?」
「家出した。」
「は?」
「行くとこ無くてマジで困ってるんだ。頼むよ。」
「いや、俺は全然構わないけどさぁ・・・」
「助かるよ。明日何時に行けばいい?」
「めちゃめちゃ急だな。」
「だってビジネスホテルなんて何日も使えないでしょうが。」
「ビジネスホテルに居るの?」
「うん。」
「待って、何処のホテル?今から迎えに行くよ。」
「ホントに?」
「・・・今からそうだな、1時間後に行くから待ってて。」
「やっぱり相葉さんに電話して正解だった。ありがとう。」
やっぱり、思った通りの返答だ。相葉さんがお人好しなのは昔から知ってるから力にはなってくれるとは思ってたけど、ここまで即座に対応してくれるとは・・・本当に有難いでしかない。それにしても・・・俺は完全にあの人を怒らせちゃったようだ。普段は何があっても怒らない観音様みたいな智だけど、出て行った俺を引き留めることもなく、電話もメール一つさえも送ってこない。あの人にとって、真琴は血の繋がりはどうでも良かったのかもしれない。自分と真琴を引き裂こうとする人間は、例え付き合ってる俺みたいな存在であっても許せないって事なんだろう。ビジネスホテルの玄関を出て、相葉さんの迎えを待っていたらさっきまであんなにお天気良かったのに、ポツポツと小雨が降って来て、数分も経たぬうちに結構な普通の雨になっていた。傘を持って出るのを忘れた俺は、そのまま雨に打たれてたけどちょっと泣いてるのを気付かれなくて好都合だった。だけど相葉さんが現れて、そんな俺を見る目がどこか哀れんでいるように見えた。
つづく