真夜中の虹 57
「以前、早苗さんの自殺を他殺の疑惑で調査依頼してきた人いたの覚えてるよね?」
「あ、元カレでしょ?」
「ううん、そいつじゃないよ。」
「は?遠藤って・・・その元カレじゃないの?」
「その調査の依頼人は遠藤って人だけど、元カレとは別人だよ。」
「どういうこと?智にDNA鑑定を求めてきたのは遠藤って人だよ?真琴の父親は元カレだと思ってた。」
「だから俺も正直驚いてる。遠藤さんが真琴くんの父親だったとは・・・」
「だってそいつは智を殺人犯に仕立て上げようとしたヤツだよね?何が目的なの?やっぱ金か?」
「遠藤さんが依頼に来た時は純粋に早苗さんの死を悔やんでたように見えたけど。」
「そんなの演技かもしれないじゃん。金が目当てならば真琴を引き取ったとしても、まともに育てるわけがないよ。」
「まだ決めつけるのは良くないよ。とにかく遠藤さんについて詳しく調べてみよう。」
「う、うん。」
そして、俺は謎に包まれた真琴の父親の正体を探るべく、遠藤という人の調査を始めることにした。相葉さんの情報で遠藤の住所は分かってたから、俺は早速その翌日早朝から自宅付近で張り込みを始めた。普通の会社員にしては立派な一戸建てに住んでる。朝8時を過ぎた頃、遠藤と思われる男が自宅から出てきた。俺はある程度の距離を保ちながら尾行した。年齢は30代前半、身なりもキッチリとスーツを纏い、俺がイメージしてたような、金に困ってプラプラしてるヤツとは全然違ってた。電車を乗り継いで、彼が到着した会社の入り口で俺はあまりの驚きに身体が固まった。何故なら、そこはかの有名な「遠藤コーポレーション」という大企業だったからだ。
「遠藤って・・・まさか・・・」
俺は出勤してくるそこの従業員を呼び止め、すかさず確認をした。
「す、すみません。あの、今会社に入ってった人・・・ここの従業員?」
「えっ?あぁ、副社長ですよ。」
「ふ、副社長?」
「ええ。副社長に御用でしょうか?」
「あ、いえ・・・」
どういうこと?何でこんな凄い会社の副社長が真琴の?金が目的でないならば、どうして?俺は疑問を抱えたまま一旦相葉さんの自宅へ戻った。それからパソコンを開いて遠藤コーポレーションについて検索をした。遠藤啓二は確かに肩書は副社長となっていて、社長は歴代3代目の啓二の祖父に当たるらしい。父親が亡くなっていて次期社長は遠藤啓二ということか。これだけの人間がどうやって早苗さんと知り合ったのか・・・
「あれ?ニノもう帰ってたの?何か分かった?」
「あ、相葉さん!あの人さ、遠藤グループの副社長だった。」
「えっ?本当に?」
「間違いないよ。ほら、これ見て。」
「驚いたな・・・」
「俺も自分の目を疑ったよ。でも不思議なんだよね。あれだけの人物が何時どうやって早苗さんと知り合ったんだろうね?」
「もしかして・・・」
「え?相葉さん、心当たりでもあるの?」
「早苗さんは生前、元カレの作った借金を返す為に色々バイトを掛け持ちしてたらしいんだよ。あ、大野さんのところのマネージャーの仕事もその中の一つなんだけど・・・他にもホステスをやったりもしてたみたい。」
「ホステス?あ、それだよね、恐らく。ね?そのお店の名前とか分かる?」
「あー、何て言ったっけかな?ちょっと待ってくれる?」
相葉さんは綺麗に整理整頓されたワークデスクの引き出しを開けて、その中に入ってる資料らしきものを取り出して一枚の名刺を見つけ出した。
「あった。これこれ。この店だよ。」
「真夜中の虹・・・何か怪しそうなネーミングだな。」
「そこは銀座の中でもかなりVIPが利用する高級クラブだよ。」
「ありがとう。何か手掛かりが有るかもしれない。俺、行ってくるよ。」
「え?いやいや・・・その格好で行くつもり?絶対相手にされないよ。」
確かに、俺は着の身着のままで飛び出したから、ジーンズに古着のTシャツ姿だ。
「はい、せめてこれに着替えて。俺のだからちょっと大きいけど、その格好よりもマシでしょ。」
「わ、悪いな。」
俺は相葉さんが貸してくれたそのスーツに着替えると、急いでその銀座のクラブへと向かった。
つづく