真夜中の虹 58
「翔さん!こっち、こっち!」
「久し振りに加えて突然過ぎるだろ。一体どうしたの?」
「ちょっとどうしても調べたい事が有るんですよ。名刺持って来てくれました?」
「あ、うん・・・」
「それじゃ、行きましょう。」
「え?行くって何処に?」
「行けば分かります。」
「えええっ?マジかよ・・・」
流石に高級クラブとなると、それなりの肩書きを持った人間でないと入店を断られる。そこで俺は翔さんの事を思い出し、協力して貰おうと、いきなり電話して銀座で合流した。俺が思った通り、翔さんは立派なマネジメント会社の経営者だからフロントで名刺を差し出すと一発OKで入店に成功した。
「いらっしゃいませ。初めまして。お二人とも見慣れないお顔ですけど、どなたかご紹介か何かですか?」
「いえ・・・紹介とかじゃないけど。」
一元の客ということもあり、俺達の席には真っ先にこの店のママさんが和服姿で現れて挨拶に来た。
「あまり男前さんなんで芸能関係の方かと思っちゃいましたよ。」
「上手だなぁ。」
「それじゃ、どうぞごゆっくりなさって下さいね。」
ママが退席した後に二人の美人ホステスが俺達の席で酒を作って接待を始めた。
「さて、本題に入るか。」
「あ、ニノ、ところで大野さんは元気にしてるの?」
「えっ?あ、うん。元気なんじゃない?」
「なんじゃない?って、毎日顔見てるんじゃないの?」
「あー、今、絶賛家出中なんで。」
「は?」
「そんな話は後でいいんです。それよりさ・・・早苗って人知ってるかな?」
俺は二人のホステスに向かってそう問い掛けた。すると、二人は顔を見合わせて溜息をついた。
「知ってるんだね?」
「お客さん、早苗さんとお知り合いなんですか?」
「直接は知らないけど、間接的には知ってる。特に彼女の子供とは面識がある。」
「えっ?」
「でさ、ちょっと教えて貰いたいことが有るんだけど。」
「な、何ですか?私達、一緒に働いてたというだけで彼女の事全て知ってるわけでは・・・」
「教えて貰いたい事は一つだけだから。遠藤啓二ってここの常連客だよね?早苗さんとはどういう関係だったの?」
「あっ・・・」
大きな声で話せないからと、一人のホステスが俺の真横に腰掛けて耳打ちするように話を始めた。
「遠藤さんはご存知とは思いますけど、大企業の御曹司さんだったから・・・早苗ちゃん、過去の清算する為に必死で働いてたんです。早苗ちゃん、遠藤さんと交際するようになって、そのうちお腹に赤ちゃん出来たみたいで。遠藤さんから正式にプロポーズ受けたみたいなんですけど、遠藤さんのご家族が早苗ちゃんの借金の事とか、ホステスやってること知ったら絶対反対されるって、ずっと悩んでたみたいです。遠藤さんは何度も店を訪れて早苗ちゃんを説得してましたけど、早苗ちゃんは思い悩んだ挙句、お店も辞めて・・・ひっそりと一人で子供産んで・・・」
「やっぱり・・・そういうことだったのか。遠藤さんは今もここには来るの?」
「いいえ。早苗ちゃんが亡くなってから、遠藤さんは別の方とご結婚されたんです。それからは殆ど来られてないです。」
「そうか。」
「え?待ってよ。何?遠藤さんとか早苗ちゃんとか・・・ニノ、俺にも詳しく聞かせてよ。」
「ごめん、翔さん。この件はまた後日きちんと説明しますから。」
人が良い智は、たまたまこの二人の騒動に巻き込まれちゃったわけだ。遠藤さんは早苗さんの事はおそらく本気だったに違いない。だから彼女の自殺も受け入れる事が出来ずに相葉さんに調査依頼を申し込んだ。しかも早苗さんが他界して4年も経ってるのに彼は必死で自分の息子を探し続けてた。
「いやぁ、何か久し振りに飲んだけど楽しかったなぁ。今度は智くんも一緒に飲もうって言っといてよ。」
「あ・・・えっと・・・はい、伝えときますよ。何か、支払いまでさせちゃってすみませんでした。」
「いいの、いいの。今度は智くんに奢って貰うから。」
翔さんときたらすっかり酒に酔って、俺が家出したって話もいつの間にか飛んじゃってる。そんな事より真琴の両親の事が明らかになって、俺が次にやるべきことが見えてきた。
つづく