真夜中の虹 6
「好き嫌いとか有る?」
「あ、俺生の魚貝とかはちょっと苦手です。」
「そうなの?おいらはめっちゃ好きだけどな。」
「何作るんですか?」
「カレー。」
「レトルトじゃないんだ?」
「ちゃんと作るよ。スパイスから・・・」
「へえ、本格的なんだ・・・」
「自炊しないの?」
「しないかな。」
「親と住んでるの?あっ、彼女?」
「一人暮らしです。彼女も今は居ないかな。」
ちょっと待ってよ。これって逆じゃない?何で俺の方が質問されてんの?
「お、大野さんはお付き合いしてる人とか居るんですか?」
「いるように見える?」
「え?うーん・・・分かんない。」
「あ、次これ炒めて。」
「あ、はい。」
えっ、待って?今上手いことはぐらかされた感じだけど・・・
「仕事は?何やってるの?」
「え?お、俺俳優になりたくて・・・養成所にバイトしながら通ってて・・・」
流石に探偵ですって言えないから咄嗟に付いた嘘だった。こないだ調査した案件がたまたま俳優の卵って人だったんで、急にそれが頭に浮かんで口から零れた。
「へぇ・・・」
流石に嘘ってバレたかな。ま、わざわざ俺の職業まで調べないでしょ。大丈夫、絶対バレっこない。暫くそんな雑談とかしながらだけど、めちゃくちゃ美味そうなカレーが完成した。
「うわぁ、美味そう。」
「んふふ。間違いなく美味いよ。食べてみて。」
「それじゃ遠慮なく頂きまぁす・・・うわっ、美味しい!」
「ホントに?良かったらお替りしてね。一人じゃあんなに食べられないから。」
「俺、普段小食なんだけど、大野さんのカレーは何杯でもいけそう。」
これは俺、マジで思った。
「そう言って貰えると嬉しい。また作るから食べに来てよ。あ、そうだ、二宮君ってお酒は飲める?」
「あ、うん。飲めますよ。」
「良かったら飲まない?」
「え?昼間っから?俺、車だし・・・」
「あははは・・・流石に今日の話じゃないよ。次回ね。」
「大野さんって・・・」
「ん?」
「何か・・・こう言ったら失礼になるかも知れませんけど、無防備ですよね。」
「え?」
「この前もそうだけど、見ず知らずで初対面の俺を家に上げたり・・・いえ、悪い意味では無いんです。俺はそのお陰で助かったんだし。」
実のところはその無防備のお陰で別の意味ではホントに助かったんだけどね。
「あー、でも誰でもって訳じゃ無いよ。」
「そーなんですか?」
「うん。」
「俺、悪い奴かも知れないですよ?」
「おいらこんなんだけど、人を見る目は有る方だと思うよ。」
「俺ってどんな感じに見えました?」
「わかんない。」
「えっ・・・ほ、ほらぁ、分かんないでしょ?」
「でも、小太郎が直ぐに懐いた。」
「あー。」
「犬飼ってる?」
「昔実家では飼ってました。」
「そうなんだ。小太郎はね、警戒心が強いんだよ。何度か面識無いとなかなか懐かないの。」
「へえ・・・」
「だから二宮君は特別だよ。」
特別ってなんかくすぐったい言葉だな。俺は色々とこの人の事を探りに来てるんだけど、なんか妙に嬉しくなった。
「こうしてお知り合いになれたのも何かの縁かも知れないですね。」
「うん、だからホント今度一緒に飲もうよ。」
「はい、是非・・・」
「何時にする?」
「えっ・・・」
随分積極的だな。
「そ、それじゃぁ、次の休日の前の日にでも・・・」
「その時は徒歩で来なよ。」
「あ、もちろん。」
「あ、そうだ!車で来なよ。翌日休みだったら泊ってっても良いんだし。ね?」
なんかめっちゃ誘ってくるな・・・この人やっぱ寂しいのかな?あの松本って人ともう別れちゃったのかな?まぁ、その辺の話も酒が入ったら話してくれるかもしれないしな。自分でも今日一日でここまで距離を縮められるとは思ってなかったから、少し戸惑ってるところはあるけど、俺は迷うことなく大野さんの飲みの誘いを受け入れた。
つづく