真夜中の虹 60(side satoshi)
真琴を実家へ預けた数日後、弁護士の三浦さんが突然俺を訪ねてきた。
「急に押し掛けてすみません。」
「で?今日は何の話?」
「勿論、真琴くんのお話です。」
「あ、悪いけど俺はDNA鑑定は・・・」
「はい。そう仰ると思ってました。実は、遠藤さんから言伝を預かって来ました。」
「言伝?」
「はい。文書で預かっていますので、私が代読させて頂きます・・・これまで、息子を大事に育てて頂いたこと、心より感謝致します。私の不甲斐なさから、この様な事態になってしまった事は深く反省しております。早苗を死に追い込んだのも、あなたに早苗が息子を託した事も、全て自分の責任です。我が子と分かっていながら知らぬ顔は出来ない、一日も早く手元に引き取りたいという一心で、あなた様の心情等、何一つ考えもせず、失礼の数々をどうかお許し下さい。本人の意思に任せると言っても、真琴はまだ幼過ぎて大人の事情で道を決めてあげなくてはならないでしょう。私共はこれ以上勝手を許されないと考えております。ですので、全てはあなた様の判断に委ねる事にします。直接お会いしてお話するのが筋ではあると思いますが、感情的になれば冷静な判断を誤る可能性もあるかと思われる為、このような形になりましたことを、どうかご理解下さい。・・・以上です。」
「ていうか・・・真琴は俺の子だってば。」
「そうですね。今は・・・」
「最初っから俺の子だよ。」
「真琴くんのお名前を命名したのは遠藤さんなんです。」
「えっ?」
「ご存知ないですよね?」
「さ、早苗ちゃんが付けたんじゃないの?」
「遠藤さんは早苗さんと結婚する覚悟でいらしたんです。ですが・・早苗さんは遠藤さんとの身分の違いで悩まれていました。」
「どういうこと?」
「遠藤さんは大企業の御曹司、早苗さんはホステスとして働いているクラブで遠藤さんと出会ったんです。」
「し、知らなかった・・・」
「二人の間に子供が授かり、遠藤さんはその事に気付くと直ぐに結婚を申し込んだそうです。けれども、早苗さんは遠藤さんの前から姿を消したそうです。早苗さんは遠藤さんに迷惑が掛かると思ったのでしょう。」
「そ、そんな・・・」
「出産するのに父親の名前が必要だったから、その時お知り合いだった大野さんに代理に立って貰ったんでしょう。」
「おいら・・・騙されてたのか・・・」
「遠藤さんはずっと早苗さんを探し続けてました。けれど、辿り着いた時には早苗さんはもうこの世に居なかった。せめて息子だけはと、探し続けていらしたんです。どうか、その事だけは察してあげて下さい。」
「・・・俺にどうしろと?」
「遠藤さんは、真琴くんを引き取りたいというお気持ちは今も変わっておられません。が・・・責任もって育てて下さるというのなら、経済的支援をなさりたいとおっしゃってます。」
「そんなに真琴を引き取りたいなら、今は実家に預けてるから勝手に連れてけば?」
「本当に?いいんですか?」
「いいよ。それでも真琴が素直についてくとは思えないけど。真琴が良いって言うなら、俺は構わないけど・・・」
真琴が自分の本当の子供じゃないと聞かされたからじゃない。そんなの俺だってある程度は分かってた。カズが出て行ってからの俺は完全に腐っちまってたんだ。もう、親権とか正直どうでも良くなってた。
「何か・・・意外だなぁ。二宮さんから、引き取る事は諦めろって釘を刺されて伺ったんですけどね。」
「えっ?カズ?カズに会ったの?」
「えっ・・・あ、はい。」
「何時?」
「先日ですが。」
「ちょ、ゴメン、三浦さん携帯貸して!」
「えっ?」
「早く!携帯貸して!今直ぐカズに電話掛けて!」
つづく