真夜中の虹 63
相葉さんが智の所へ連れて帰ると張り切ってた。勿論、俺も直ぐにでも智に逢いたかった。だけど、その前にどうしてもやらなきゃならない事が俺には有る。口で説明したところでそんなの後回しだって言われるの分かってたから、相葉さんには悪いけど、その日の早朝にこっそり俺は一人相葉さんの家を出た。
俺が向かった先は、真琴の居る智の実家だった。玄関先で俺を出迎えたのは真琴だった。俺が家を出て僅か2週間程の事だったけど、久し振りに見る真琴はなんだか少し大きくなった印象すらした。
「あっ!カズ!」
「よっ、真琴、良い子にしてたか?」
真琴は俺の方に全力で駆け寄り、両手を広げて俺を必死で抱き締めた。
「カズ、何処いってたの?お家帰りたいよ。」
「うん・・・分かってる。分かってるから。その前に俺はちょっとおばさんと話有るから、あっちで待ってられる?」
「うん。」
俺はおばさんに深々と一礼して家の中に入った。
「突然お邪魔してすみません。」
「今日は智は一緒じゃないの?」
「えっ・・・あ、はい。今日は僕一人です。」
「幾ら仕事だからって、全然逢いに来ないなんて父親失格よ、あの子は。」
「すみません。全部僕のせいなんです。」
「えっ?」
「僕が勝手に家を出たものだから・・・」
「どういうこと?喧嘩でもしたの?」
「実は・・・」
俺はおばさんに智が真琴の本当の父親でなかったこと、本当の父親が現れた事、これまでの全ての経緯をおばさんに話した。
「・・・そうだったの。そんなことがあったの。あの子そんな事一言も話さないから。それで?真琴のことはどうするつもりか決めてるの?勿論本当の親御さんにお返しするのよね?」
「いえ・・・僕らで育てようと思います。あの、実は僕と智はお付き合いさせて貰ってます。」
「は?お、お付き合い?」
「すみません。もっとこういうことは早くお話しなくちゃいけなかったんですけど・・・真琴の事で色々あって、順番が逆になっちゃって。」
「何か、そういうの良く分からないんだけど・・・まぁ、それはさておき大人の喧嘩に子供巻き込んでおいて自分達が育てますって・・・ちょっとどうかと思うけど。」
「仰ってることはもっともだと思います。けど・・・真琴がうちに帰りたいって言ってるんです。真琴の家は智が居るあの家なんです。」
「あたしだって今更本当の親だって名乗り出られても、はいそうですかって簡単に真琴を引き渡すなんて流石に出来ないわ。でも、真琴にキチンと本当の事を話さないと・・・後で本人が知った時にどう思うか・・・」
「そうですよね。僕もそれは思います。これから、真琴にはキチンと僕が説明します。」
「そうね。真琴はまだ小さいけど、ここは正直に真実を伝えて本人に決めさせた方が良いと思うわ。それにしても、うちの子は何してるの?」
「許してあげて下さい。あの人が今回の件では一番傷付いてると思うんで。」
「でしょうね・・・」
「真琴、ちょっとこっち来な。」
「はーい。」
「いいか?俺の話をよーく聞くんだぞ。」
「うん、なぁに?」
「智はね、真琴の本当の父さんじゃないんだ。」
「えっ?」
「真琴の本当の父さんは別の人なんだ。」
「ぼくの本当のお父さん?」
「ああ・・・」
「ぼくのお父さんはさとしだよ?」
「うん。でもね、本当の父さんが真琴と一緒に暮らしたいって言ってるんだ。真琴はどう?」
「ぼくのお父さんはさとしだよ。変なの。」
「そっか。そうだな。変だよな。」
「うん、だからさ、カズ、早くお家に帰ろうよ。」
「よし、帰ろうな。」
「ま、待って。だけど・・・本当にあなた達にその覚悟は有るの?分かってるとは思うけど、途中で投げ出せないのよ?自分の人生が犠牲になっちゃうのよ?それでも・・・」
「おばさん・・・僕らは覚悟は出来てます。僕も・・・もう二度と家出なんて馬鹿な真似しないって誓います。だから・・・」
「そう。分かったわ・・・」
「それじゃ、真琴は僕が責任もって連れて帰ります。さっ、真琴、帰るぞ。」
「うんっ!」
俺は真琴の小さな手を取り、智が待つ俺達の家へと向かった。
つづく