真夜中の虹 64
「ただいまぁ。」
久々に帰宅した俺と真琴。玄関を開けると、早く智に逢いたい真琴は、俺の事は構わずに靴を脱ぐと一目散にリビングに飛び込んで行った。
「さとしーっ」
「おっ?真琴?」
こういう時、子供がホント羨ましかったりする。俺だって本当は全力で駆け寄って抱き締めたいくらい。
「カズ・・・」
「た、ただいま。」
「良かったぁ。また何処かへ行ってしまったかと思った・・・」
そう言って智はそっと俺の肩を抱いた。
「そんなわけないじゃない。」
「うん、そうだな。ここはカズの家だもんな。お帰り、カズ。」
「ん、ただいま帰りました。」
「ゴメンな。おいら・・・カズを傷付けるようなこと・・・」
「もう、その話はいいですよ。あっ、それより相葉さんは?」
「あ、あの人めっちゃいい人だね。仕事あるらしくて帰っちゃったけど。」
「そう・・・何か言ってた?」
「カズの事めっちゃ心配してたよ。ちゃんと連絡は入れてあげなよ。」
「うん、分かってる。」
「それより・・・わざわざうちの実家に行ってたのか?」
「ええ、まぁ。」
「母ちゃん驚いてただろ?」
「一応話はつけてきました。」
「えっ?」
「その話はまた後で。そんなことより明日真琴は保育園だから、夕飯食べさせてさっさと寝かさなきゃ。」
「う、うん。そうだな・・・」
俺が夕飯の支度してる間に智が真琴を風呂に入れる。何だか当たり前の日常過ぎて昨日までの出来事がまるで嘘のようだ。智と口論になって家を飛び出し、相葉さんにSOSを求め、真琴の父親である遠藤さんの正体を探り、心身ともにくたびれ果てても不思議じゃないはずなのに、俺は意外と平気だった。それは、やっぱりどういう形であっても智とまた一緒に居られるからだ。
「真琴、寝た?」
「うん。家に帰れて安心したんだな。絵本も最初の方で眠っちゃったよ。」
「ふぁぁっ・・・俺も今日は流石に疲れたかな。先に寝ます。」
「えっ?本当に?もう寝ちゃうの?」
「俺も家に帰れてホッとしてるんで。」
「それは分かるけど・・・久し振りなのにもう寝ちゃうの?」
「はい。今夜はもう休みます。」
「えええっ・・・」
俺は我慢してたけど、智のガッカリしたその表情を見て堪らず手で口元を覆って噴き出した。
「なんで笑うの?」
「あの、俺はもう何処へも行かないってば。」
「本当に?」
「おばさんにも約束したしね・・・」
「母ちゃんに?」
「この先どんなことが有っても俺達は別れませんって・・・」
「えっ?話したの?付き合ってること。」
「話しましたよ。全て・・・」
「マジか・・・」
「良かったですね。遠藤さん、話の分かる人で。」
「相葉くんから聞いたけど、カズはおいらと真琴の為に色々頑張ってくれたそうだな。」
「まぁ、あなたと真琴の為というより、自分の為でもあるんで。俺、自分が納得行くまで自分の目で確かめないと気が済まない性分なんで。」
「カズ・・・」
智は俺を引き寄せて久々のキスを迫った。
「あの・・・俺は眠いって言ってんだけど?聞いてました?」
「チュウくらいいいじゃん。」
「そんなのこれからは何時でも出来ますって。」
「うううっ・・・分かったよ。それじゃ、おいらも寝る!」
「はい、おやすみなさい・・・」
俺は笑いながら拗ねて子供みたいな智にそっと唇を重ねた。
つづく