真夜中の虹 65
それから数か月後、俺達は3人で家族旅行がてらの墓参りに来ていた。その日は真琴の母親でもある早苗さんの命日ということもあり、自分達がこれから真琴を責任持って育てていくってことの報告も兼ねていた。早苗さんの実家は静岡で、なかなかしょっちゅう行ける距離じゃないから、智自身も早苗さんが他界してから命日くらいしか行けてないらしい。今回も智は一人で行くと言ってたんだけど、俺も早苗さんには全く面識も無いし、墓前で一度挨拶くらいはしておきたかった。真琴だって、母親の墓参りはキチンとさせておいた方がいいだろうって俺から智を説得して皆で行く事に決めた。
「真琴、ここがお前のお母さんが眠ってるお墓だよ。」
「ぼくのおかあさん?」
「ああ・・・」
「ほら、お墓綺麗にお掃除するから真琴も手伝って。」
「はぁい。」
赤ん坊の時に母親を亡くした真琴にとって、勿論まだ本人も幼いこともあって、お母さんって存在はあまりピンと来ないのだろう。母親に逢いたいと泣きじゃくられたりしないだけ、唯一の救いだったりする。あと数年もすればどうして母親が死んだのか、何故自分を残して自ら命を絶ってしまったのか・・・きっと知る事にはなると思うけど、俺達が真琴に伝えたいこと、教えなくちゃならない事はそういう真相みたいな話じゃなくて、早苗さんがこの世に自分を産んでくれたことを心から感謝できる人間になって欲しいって事なんだ。
「よし、めっちゃ綺麗になったね。真琴のお母さんもきっと凄く喜んでるよ。」
「うんっ。」
「それじゃ、目を閉じてこうやって手を合わせて・・・お母さんにありがとうって伝えようか。」
来る途中で花屋に寄って買ってきたお供えの花やジュースを備え、線香を焚くと3人並んで早苗さんのお墓に手を合わせた。智は俺達の倍以上長いこと目を閉じて早苗さんと話してる様子だった。まあ、気持ちは分からなくもない。智は丸6年もの間、真琴が自分の子だと思って疑わなかったわけで、それは色んなタイミングの悪戯では有ったにせよ早苗さんが上手く智を騙してたわけだから。
「ねぇねぇ、さとし、ぼくお腹空いちゃったよ。」
「えっ・・・あ、うん。それじゃそろそろ行こうか。」
「随分長いこと早苗さんと話してたみたいだけど、気が済んだ?」
「ええっ?そうか?おいらは色々報告してただけだよ。」
「フフッ・・・早苗さんもあなたにきっと感謝しまくってるよ。」
「よし、真琴、何か美味いもんでも食いに行こうか。」
「わーい。」
俺達が墓参りを済ませてその場を離れようとした時・・・水桶と花を抱えた男女二人が俺達の方にゆっくりと並んで歩いて来た。
「あっ・・・あなたは・・・」
「ん?カズ、知り合いか?」
「遠藤さん・・・」
「に、二宮さん・・・」
「え?遠藤さんって・・・もしかして?」
「もしかすると、こちらは大野さん?あ・・・この子が真琴・・・くん?」
確かに早苗さんの命日なんだから、予期しなかった俺達も悪いのは悪いんだけど・・・まさかこのタイミングで初顔合わせになるなんて。隣で礼儀正しく頭を下げてるのは恐らく遠藤さんの奥さんだろう。ここに一緒に来るって事は、奥さんも早苗さんの話は十分理解しているんだろうな。
「こんにちは。真琴くんだよね?」
その婦人は真琴の前に中かがみになると、真琴の頭を優しく撫でた。すると、智の顔色は突然急変して・・・
「さ、行くよ。」
そう言って真琴の手を急いで掴むと、逃げるようにその場を立ち去った。
「ちょっ、智、待ってよ!あー、すみません、遠藤さん、また・・・」
俺も慌ててその後を追った。
つづく