真夜中の虹 67
「ただいま。遅くなってすまない。」
「ちゃんと連絡しないから心配しちゃったじゃん。何処行ってたの?」
「カズ、ちょっとめちゃくちゃ大事な話が有る・・・」
「え?な、何?」
智は真剣な表情で部屋のソファーに腰掛け、俺にもそこに座るように促した。めちゃくちゃ大事な話って何なの?やっぱ、俺達別れよう・・・なんてこのタイミングで言い出さないよね?それは流石に無いだろうって思いながらも、智の改まった態度に俺はちょっと戸惑いながら彼の目の前の椅子に腰掛けた。
「で?何よ?話って・・・」
「うん、実はさ・・・おいら、今日逢って来たんだ。」
「え?誰に?」
「遠藤さん夫婦。」
「は?嘘?」
「ホントだよ。」
「またどうして?」
「おいら、勘違いしてたんだ。遠藤さんの事・・・」
「あ、うん・・・そんなことだとは思ってましたけどね。だけど、だからって何故わざわざ逢いになんて行ったの?しかもよく宿泊先とか分かったね。」
「あ、それは三浦さんに電話して聞いた。」
「なるほどね。それで?遠藤さんに逢ってどういう話をしたの?」
「真琴のこれからのこと。」
「それは・・・もうこっちで面倒みるって話で和解出来てましたよね?」
「うん。だけど・・・それで本当に真琴は幸せなのかなって・・・」
「それはこれから育てる俺達次第なんじゃない?」
「おいらが真琴と離れたくないからって、自分の勝手で本当の父親が居るのに真琴に選択肢も与えないなんて、おいら後で絶対に真琴に恨まれるんじゃないかと心配になってきた。」
「今更?」
「分かってるよ。一度はカズがそう言って話を聞こうともしなかった俺のことを説得しようとしてくれた。それを撥ね退けたのもこの俺自信だってことも。」
「まぁ、あの時はね・・・無理もなかったとは思うけど。だけど、真琴はあなたが父親だと思ってますよ。」
「何か、嫌なんだよ。騙してるみたいでさ・・・」
「別に騙してなんか・・・で?どうするつもりなの?」
「明日、真琴を遊園地に連れてって、そこで1日遠藤さん夫婦に真琴と過ごして貰う。」
「ええっ?」
「もちろん、たった1日じゃ結論は出ない。だから、数回に分けて遠藤さんには真琴を預けようと思う。」
「本気で言ってるの?」
「うん・・・もう、遠藤さんとも話は決めてきた。」
「遠藤さんは?なんて言ってるの?」
「最初は驚いてたけど、喜んでた。」
「そりゃあ、喜ぶだろうな。ようは、あなたは養育の権利を完全に遠藤さんに譲ってもいいと思ってるんだ?」
「・・・うん。」
「真琴がそれを聞いてどう思うか・・・」
「それでさ、協力して欲しいんだ。」
「協力?俺に?」
「うん。おいらはこれから真琴にとことん嫌われるようにする。勿論芝居だけど・・・」
「芝居ねぇ・・・急にそんな事できるの?」
「やるしかないだろ。」
「何も芝居までして無理する事ないのに。」
「そうでもしなきゃ、真琴の為だから。な、だからカズには芝居だってことは分かっていて欲しいんだ。」
「そ、それは構わないけど・・・」
まぁ、確かに普通に説得したところで小さい真琴にはまだ、すんなりと理解できるとは思わない。だけど・・・俺が心配なのは、正直真琴よりも智のメンタルの方だ。子供は叱られたって次の日ケロッと忘れたりするものだけど、いずれ手放さなきゃならないと覚悟しつつ芝居を貫くなんて幾ら何でも辛過ぎるよ。俺は智の決断は男らしいって思う。だけど、それは痛々しくも思えて・・・
「はぁ・・・もう・・・あなたって人は・・・」
俺は静かに立ち上がると、何も言わずに智に近付き、そっと背中から彼を抱き締めた。
つづく