真夜中の虹 68
「いいか?今日は遠藤さんが遊園地に連れてってくれるから、良い子にしてろよ。」
「えんどうさんってだれ?」
「昨日お墓参りで逢っただろ。」
「ええっ?ぼくやだぁ。さとしも行こうよ。カズも・・・」
「我儘言うんじゃない!今日は俺らはどうしても外せない仕事が有るんだ。これからは仕事も忙しくなるから、俺らは色々お前のこと遊びに連れてくことも出来なくなるから。」
「ぼく一人でお留守番する。」
「駄目だ。」
「うわぁーん・・・」
早速、翌朝智は真琴に今日の計画の為の嘘をつく。仕事が忙しくなるなんて完全な作り話。これも真琴を自分から遠ざける為のお芝居だ。何も知らない真琴は、智のいつになく強い口調に怯えて泣きじゃくる。そこにさりげなくフォローに回るのが俺の仕事。
「うふふ。真琴・・・お前、男だろ?いつまでもそんな甘えん坊の泣き虫でどうすんだよ。ほら、涙拭いて。遠藤さんはとっても優しい人だから。奥さんなんて優芽ちゃんのお母さんみたいにとっても優しい人だよ。だから何も心配する事ないんだ。」
「・・・ホントに?」
「ああ。本当だよ。」
暫く説得を続けると、真琴は何とか遊園地へ出掛ける覚悟を決めた。そして、俺と智は現地まで真琴を送り届けた。
「それじゃ、真琴をお願いします。」
智はそう言って真琴を遠藤さん夫妻に預けると、足早にその場を去った。
「これから、どうするの?」
「・・・」
「智?」
「え?あ、ゴメン。何?」
「真琴が戻るまでの間、俺達は何するの?って聞いてるの。」
「あ、うん・・・そーだなぁ・・・デートでもすっか?」
「えっ?」
「だって、考えてみたら一度も無かったじゃん。デートなんて。」
「う、うん///」
突然智の口からデートなんて思いもかけないワードが飛び出したから、俺は顔から火が出るくらい真っ赤になった。
「どっか行きたいとこある?」
「急に言われても・・・」
「言っても夕方頃までだからあんまり遠くには行けないけど。」
「俺は何処でも構わないよ。」
この人と一緒なら場所なんて何処でも楽しいに決まってるもの。だけど、自分達も遊園地デートってわけには流石にいかないからスマホで調べて近くのアミューズメントパークで時間潰す事にした。ボーリングやダーツ、ゲーム機なんかで時間忘れるほど楽しく遊んだけど、帰りの時間が近付くにつれ、智の顔から次第に笑顔が消えた。
「電話もなかったな・・・」
「あ・・・遠藤さん?」
「ああ。」
「電話して来ないって事は、真琴も大丈夫だったって事ですよ。」
「うん・・・きっとそうだな。」
複雑な心境なんだろうな。昨日の今日だから・・・。自分で決めた事だとはいえ、真琴は今日はまだ自分のところに戻ってくるけど、そのうち戻って来なくなるわけだから現実的に考えると辛過ぎるよ。
「あのさ、無理すること無いんじゃない?」
「え・・・」
「本当は寂しいんでしょ?」
「何が?」
「真琴のこと。」
「寂しいよ。寂しいけど・・・おいらにはカズがいる。」
「うん。俺はあなたの傍に居るよ。」
「ずっと・・・居てくれよ?」
「フフッ。言われなくても分かってますよ。さっ、そろそろホテルに戻らなきゃね。真琴が帰って来ちゃう。」
「うん。」
「ほら、そんなこの世の終わりみたいな顔してたら真琴にお芝居が見抜かれちゃいますよ。」
「うそ?おいらそんな酷い顔してた?」
「冗談ですよ。」
「なんだ、冗談かよ。」
決してそれは冗談なんかじゃなかった。眉間に皺寄せて、今にも泣きそうな子供みたいな表情だった。俺はそっと寄り添う事しかできないけど、それで少しでもこの人の心が癒されるならずっと寄り添ってあげたいって本気で思った。
つづく