真夜中の虹 72
月日が経つのって早いもので、あれからひと月が過ぎた。真琴が遠藤さんに正式に引き取られ、荷物とかの引き渡しなんかもあっけなく終わってしまった。最初のうちは心配だから遠藤さんに度々電話掛けて、真琴の様子なんかも確認してたけど、真琴はとにかく遠藤さん夫妻が優しくしてくれるから、俺らが心配するほどホームシックにかかったりすることもないみたいで、ホッと胸を撫で下ろしてる。逆に俺の方が真琴は今頃何してるかなぁって、時々あの無邪気で可愛い真琴の笑顔思い出しては寂しくなって深い溜息をついたりしてる。智はというと、寂しさを紛らわすかのように仕事に没頭してた。マネージャーを解任された俺は、素直に智の言う通りに相葉さんの探偵事務所に再就職することにした。今日から正式な初出社だった。
「おはようございます。」
「あ、ニノ、良く決心してくれたね。今日からまた宜しくね!」
「うん、宜しくお願いします。」
「紹介するね。こちらは総務、経理を任せてるみのりちゃんっていうの。みのりちゃん、彼がニノだよ。」
「初めまして。森嶋みのり、と言います。二宮さんの事は相葉さんから伺ってます。宜しくお願いします。」
「こちらこそ、宜しくお願いします。それにしても、相葉さん凄いね。総務とか雇えるようになったんだね。」
「大袈裟だよ。仕事しながら受付や経理ってなかなか大変だからみのりちゃんに来て貰ったんだよ。みのりちゃん、コーヒー淹れて貰える?」
「はい。」
「いい子でしょ?」
「えっ・・・まさか相葉さん惚れてます?」
「え?みのりちゃんに?まっさかぁ///」
分かり易い人ではある。明らかにタイプでしょ。
「か、勘違いしないでよ。あの子何処から来たと思う?」
「へ?東京・・・でしょ?」
「違うよ!その何処からって意味じゃ無くて・・・」
「は?」
「大野さんに紹介してもらったんだよ。聞いて無いの?」
「ええっ?智に?」
「あ、聞いて無いんだ・・・」
「ちょっと!智とどういう関係?」
俺は堪らず身を乗り出して相葉さんを問い詰めた。
「まぁまぁ、落ち着いてってば。」
これが落ち着いていられるか!智がいつの間にか相葉さんと仲良くなってる事も不思議なんだけど、それよりも何で女の子紹介なんてしてんだよ。
「ちゃんと説明しろ!」
「説明する、説明するから一旦座れって。」
「どうかなさったんですか?」
押し問答している間にみのりがコヒーを持って戻って来た。
「あんた、大野智とどんな関係?」
「えっ?」
「はぁーん、口止めされてるのか?なるほどね・・・」
「ニノ、待ちなよ。何を怒ってんだよ。今から説明するって言ってるでしょ。みのりちゃん、ゴメンね。気にしなくて良いから。」
「は、はあ・・・」
「みのりちゃんは大野さんとは面識はないよ。大野さんが直接みのりちゃんを連れて来たわけじゃないんだ。」
「・・・え?どういうこと?」
「マネージメント会社の櫻井さんって知ってるよね?」
「え、あ、うん。」
「彼女は櫻井さんに派遣してもらったんだよ。」
「そ、そうなの?」
「嘘じゃ無いよ。ちゃんとほら、契約書だってあるんだから。」
そう言って、相葉さんは俺に翔さんの会社の契約書を俺に手渡した。
「なんだ・・・そういうことか。」
「もぉー、ニノは大野さんの事になると直ぐムキになるんだもん。」
「ご、ゴメン・・・」
「俺も言い方が少し悪かったよね。ごめん。前に大野さんと話した時にさ、色々とこの仕事の事を聞かれたんだよ。俺が本当はニノを仕事のパートナーとして雇いたかったって言ったから。そしたら、経営とかちゃんと出来てるの?とか、とにかく細かい経理の事まで聞かれて・・・経理や事務的なことをする職員は絶対に必要だから入れた方が良いって、直ぐにその櫻井さんって人を紹介してくれたんだ。大野さんってホント顔が広いよね。櫻井さんって人もめっちゃ感じのいい人だったし。」
「な、なんだ。それを先に言ってよ。」
「うん、だからゴメンってば。」
智はマネージャー絡みの事で早苗さんみたいな事件巻き込まれたり、色々とあっただけに俺も過剰に反応しちゃうんだよ。ホント、これは伝える順番が悪い。相葉さんのあんな言い方じゃ、智が直接紹介したとしか思えないもの・・・俺はホッとして、みのりがテーブルに置いてくれたコーヒーに手を伸ばした。
「みのりちゃん、何かゴメンね。相葉さんのせいで俺、つい勘違いしちゃって。」
「うふっ。大丈夫です。全然気にしてませんから。」
みのりはニッコリと俺を見て微笑んだ。
つづく