真夜中の虹 75
「あの・・・浮気調査のどこが大きい仕事なんですか?」
「話はちゃんと最後まで聞きなって。この依頼主、誰だと思う?」
「あー、有名人とかか?」
「そう思うでしょ?それが違うんだよ。」
相葉さんがいかにも勝ち誇ったドヤ顔でその話を続ける。
「これ仮に個人の依頼だったら幾ら相手が有名人だったとしても1回きりの仕事じゃん。」
「うん・・・まぁ、そうだよね。」
「聞いて驚くなよ。これ、あの有名な週刊リアルからの依頼なんだ。」
「えっ?マジで?」
「しかも長期契約を結ぶことになったんだ。」
「えっ?長期契約?すげぇな。相葉さんにそんな人脈有ったなんて初耳だな。」
「うふふ・・・でしょ。なんてね・・・実はこの契約の話、ニノも知ってるあの櫻井さんが纏めてくれたんだ。あの人本当にイイ人だよね。」
「翔さんが?」
あの人はマネジメントの会社を運営してるから顔が広いのは確かなんだけど、みのりちゃんを事務所に派遣したというだけの縁でここまでスピーディーに、仕事のマッチングまでしてくれるかな。俺はこの件に関しても、絶対に裏で智が何か根回ししてくれてるって思った。
「あの人、また勝手に余計なこと・・・あっ、いや・・・もしかしてそういうこと?」
「は?」
「あ、ううん・・・俺の独り言だから気にしないで。」
まぁ、実際に探偵事務所なんて依頼主が現れなきゃ仕事になんない。独立して日の浅い相葉さんにその筋の人脈ないならば暫く探偵というよりは依頼主を獲得すべく営業的な仕事が多くなることも、俺は仕事復帰する時点で十分覚悟してた。だけど大手週刊誌の会社が契約してくれるとなると、その手間は一気に省けるし、おそらく仕事は絶える事はない。確かに有難い話ではある。智が言ってた俺への誕生日プレゼントって、もしかしたらこの事だったのか?だとしたら、これなかなかのサプライズだな。
「とにかく、今日は編集長に挨拶と担当の人との打ち合わせをすることになってるから、ニノも一緒に来て。」
「あ、そうなんだ。うん、それは構いませんけど。」
こうして俺は相葉さんと二人で週刊リアルのオフィスを訪ねる事になった。
「初めまして。週刊リアル編集長の吉田と言います。」
「初めまして。相葉探偵事務所所長の相葉と言います。で、彼が・・・」
「二宮です。初めまして。」
「あ、あなたが・・・」
「え?」
「実は・・・僕、大野とは中学時代からの友人でして。大野からは余計な事言うなって口止めされてたんだけど・・・どうせ隠しててもバレるでしょ。あなた達プロの探偵なんだから。」
「智の同級生?」
「ええ。つい先日恋人が世話になるからって連絡貰って、てっきり僕は女性かと思ってたもので・・・。大野のヤツ、からかいやがったな。」
「吉田さん、大野さんはからかってなんかいないですよ。ニノはれっきとした大野さんの恋人です。」
「えっ?ホント?」
「あ、相葉さん、こんなところでやめてよ。」
「なんで?本当のことじゃん。」
「驚いたな。」
「なんか、すみません。こんなプライベートなこと俺に相談も無く・・・」
「いえいえ、あなたが謝る事でもないですよ。あ、でも何か分かるな。確かに大野が好みそうな感じですよ。」
「やぁ、もう恥ずかしいからやめてくださいよ。」
「それじゃ、これから宜しくお願いします。」
「こちらこそ、宜しくお願いします。」
「それでは早速、担当を呼んで来ますので、こちらで暫くお待ち下さい。」
俺達は会議室に通された。
「ここの編集長って大野さんの知り合いだったんだね。ニノから大野さんに宜しく伝えてよ。」
「え、あ、うん。」
「ニノは何も聞いて無かったの?」
「うん。聞いてたら直ぐに相葉さんに話してるよ。」
「どうして内緒にしてたのかな。」
「さぁ。」
誕生日のサプライズだって説明したりしたら、相葉さんの事だからこの場でギャーギャー興奮しそうだし、この後の打ち合わせに支障を来すとマズいから、そこは軽く流しておいた。
「お待たせしました。担当の長谷川です。早速ご依頼する案件について説明させて頂きますね。」
俺達は今回の依頼に対する資料を手渡された。それに目を通すと、そこに記されていたのは、予想通り有名芸能人の浮気調査だった。
「調査と言っても、うちの記者がある程度は取材をしてますんで、そちらにして頂くことは決定的な証拠となる物を掴んで来て頂く、という感じです。お約束頂くこととしては、何が有っても先方に素性がバレないようにして頂く事。期日を守って頂く事くらいでしょうか。」
「任せて下さい。僕達もプロですから。そこらへんは心得てますよ。」
「それは頼もしいです。それで、大変恐縮なのですが、今回の依頼は割と期日が迫ってまして・・・」
「え?待って。これって3日後・・・ですか?」
「そうなんですよ。無理でしょうか?断って頂いても構いませんが・・・」
「いや、何とかします!」
「あ、相葉さん?いくらなんでもそれは無茶・・・」
そう言い掛けたら、相葉さんの手が俺の口元を覆った。
「僕らにお任せください!」
週刊リアルっていう、とてつもなく大きな契約に目がくらむのは分からなくもないけど、たったの3日でって流石に無理でしょ。
つづく