真夜中の虹 76
担当の長谷川さんとの打ち合わせを終えて、俺達は自分たちの事務所に戻るべく週刊リアルの社屋を後にした。
「ちょっと、どうするつもりなの?」
「え?」
「いや、気持ちはわかりますよ。だけど、流石に3日じゃ無理でしょ。今からでも遅くはないよ。断りましょうよ。」
「何言ってるの、大丈夫だってば。」
何を根拠に大丈夫だって言ってるんだろうな、この人。
「考えてもみろよ。前もっての取材は全部あっちがやってくれてて、俺達がやることは確固たる証拠を握るだけなんだぜ?そんなもん二日も要らないでしょ。どう考えても楽勝じゃね?」
「そりゃあ、そうだけど・・・。そんな簡単にいくかなぁ。」
「やると言ったらやるの。」
「えええっ・・・」
「あのさ、この仕事もしも断ったりしたら他の同業者に流れちゃうんだよ。分かってる?」
「期限守れなかった方が問題だと思うけど。」
「しかも、今回だけじゃない。せっかくの長期契約だって白紙になり兼ねないんだぞ。」
「いや・・・それは考え過ぎじゃない?」
「こういうことは最初が肝心なんだよ。分かってないなぁ。とにかく時間が無いからさっさと事務所に戻って打ち合わせするよ。」
「もう、マジで?俺、知らないよ?」
「おいおい、ニノは運命共同体なんだからね。そんな心細い事言わないでくれる?何よりも大野さんの顔に泥塗るわけにはいかないじゃん。」
勝手に運命共同体なんかにされてるのも何だかなぁって感じだけど。ま、この人一度言い出したら断るという選択肢はないんだろうな。そして事務所に着いて落ち着く間もなく、長谷川さんから電話が入った。
「もしもし、相葉です。さっきはどうも・・・。えっ?それ、本当ですか?わっかりました。ご連絡ありがとうございます。」
「長谷川さん、何て?」
「ニノ、悪いけどこれから直ぐに広島に行ってくれる?」
「は?」
「佐伯稔、愛人と広島に向かったって。」
「え?それで何で俺?」
「ほんっと、マジでごめん。俺が行けるなら行きたいのは山々なんだよ。だけど俺は明日どうしても外せない調査依頼が1件入っててさ。」
「マジで?呆れた、それでよく引き受けましたね。」
「だってニノも居るし。」
「いや、そりゃそうだけど・・・」
俺は何も聞いて無いし。
「あ、そうだ。広島にはみのりちゃんも同行してもらうからさ。」
「え?私もですか?」
「うん、ちゃんと手当は払うから。」
「どうして?俺一人でも大丈夫だよ?」
「万が一の事を考えてだよ。みのりちゃんも居たら何かの役には立つでしょ。」
「ああ、そうかってなんないよ。みのりちゃんは事務職で派遣されてんだよ。現場なんか連れて行けるわけがないでしょ。」
何勝手な事言ってんだよ。
「あ、私は大丈夫ですよ。それも最初に相葉さんからご説明受けてますし。」
「えっ・・・」
「そういうことなの。採用面接の時に一応はそれもお願いしてる。」
「えっと、それじゃあ・・・私は早速広島までの新幹線を手配しますね。」
「あ、うん。流石みのりちゃん、仕事が早いね。」
何だよ。結局は俺に全てお任せってことじゃない。相葉さんもホント調子いいんだから。まぁ、俺は所詮この人から雇われてる立場なんで、所長命令は聞かざるを得ないんだけど。それにしても、みのりちゃんの面倒まで見なくちゃなんないなんて。一人の方がどんなに気楽な事か。それに・・・この事を智が聞いたら一体何て思うか。
「13時10分発の新幹線の手配出来ました。駅からレンタカーの予約も入れておきました。」
「みのりちゃんはホント気が利くなぁ。ありがとうね。困った事があったら直ぐに俺に連絡くれていいから。」
「はい。二宮さんの足手纏いにならないように頑張ります。」
「心強いなぁ。ねぇ、ニノ。」
「あ、あぁ・・・」
みのりちゃん、急に言いつけられた遠征にも関わらず、どこかやる気満々に見える。俺の気のせいだろうか?
「もうあんまり時間も無いから駅まで送るよ。二人とも簡単に準備して。」
完全に相葉さんのペースに巻き込まれてしまってる。とにかくあれこれ考えてる暇も無く、俺は尾行とかに必要な仕事の道具を鞄に詰め込み、相葉さんが運転する車で東京駅へと向かった。
つづく