真夜中の虹 77
「はい、これお弁当。新幹線の中で食べて。」
「わぁ、相葉さんありがとうございます。」
「いや、あのさ・・・俺達べつに旅行行くとかじゃありませんけど?」
「向こうに着いてからじゃ、ゆっくり食事とかもしてられないでしょ。移動中にしっかり栄養付けとかないとさ。」
「うん・・・まぁ、そりゃそうだけど・・・」
「ニノが要らないんなら全部みのりちゃんが食べるといいよ。」
「えっ・・・」
「とにかく、いつでも連絡は取れるようにしといてね。こっちからも的確に指示を送れるようにしとくから。」
「大丈夫ですよ。どうせ浮気の証拠なんてホテルに入っていく写真さえ撮れればいいんでしょ。そんなの俺一人でも十分だっての。今日中に戻りますよ。」
「ま、勿論俺はニノを信頼してるけどね。くれぐれも宜しく頼むよ。」
「あっ、二宮さん、そろそろ行かないと・・・」
「あ、うん。それじゃ、行って来る。」
それから俺とみのりちゃんは新幹線へと乗り込んだ。座席に座ると、みのりちゃんは相葉さんから手渡された弁当とペットボトルのお茶をシートバックテーブルの上にそれぞれ配置してくれた。
「あ、ありがと。相葉さんは俺の分もみのりちゃんが食べればって言ってたけど。」
「うふふっ。無理です。こんなのわたし二つも食べれませんよ。」
「確かに。」
それは結構豪勢な幕の内弁当だった。俺一人の出張だったらここまで奮発しないだろうな。よっぽどあの人みのりちゃんがお気に入りとみえる。何はともあれ、相葉さんが言うように、現地に着いてからはゆっくり飯なんて食べてる暇はないだろうから、俺はともかくみのりちゃんの為にも今のうちに腹ごなししておくのは正解だ。
「それにしても、何で相葉さんったら今回みのりちゃんを同行させるなんて言い出したのかな?」
「それは、多分ですけど・・・私が以前、所長に現場のお仕事もやってみたいってお話したからじゃないかと・・・」
「そ、そうなの?」
「わたし、探偵のお仕事に凄く興味があるんです。」
「へぇ・・・」
女の子で珍しいな、って言いそうになったけど、今どきこの発言は男女差別になり兼ねないからそれは胸の内に留めておいた。
「私、シャーロックホームズとかコナンが大好きなんです。」
「え・・・コ、コナン?」
みのりちゃんは、幕の内弁当を頬張りながら、めちゃめちゃテンション高く語り始めた。
「・・・だから、そのことを所長にお話したら、是非現場にも足を運んでこのお仕事を学んだらいいよって言って下さって。」
「ゴホッ、ゲホッ、ゴホッ・・・」
俺は思わずその発言に弁当を喉に詰まらせた。
「だ、大丈夫ですか?」
みのりちゃんは慌てて俺の背中をさすって、お茶を飲むようにと促した。
「あ、もう・・・大丈夫。あのさ・・・」
「はい?」
「あ、いや・・・何でもない。」
この仕事が推理小説みたいな仕事だと錯覚起こすのも無理はないけど、実際は興信所みたいな人探しだったり浮気調査が殆どなのよ、って言い掛けたけど止めた。だって、それは相葉さんが説明することだし、ここまでみのりちゃんのテンションMAXになってるのに、今現実を突き付けられてメンタル下がってもかえって面倒だと思った。
「あの、二宮さんがこれまでにお仕事された中で一番衝撃的な案件って何ですか?」
「えっ?あー・・・自殺の真相を探る、ってヤツかな。」
しかもそれって好きな人に関わってたんだよな。
「へぇ。何か凄いですね。それって事件性が関わってたりしたんですか?」
「いや・・・」
「あ、すみません。私ったらつい調子に乗って・・・。だけど、本当にそういったお仕事の依頼も有るんですね。」
「稀にだけど。」
「あの、今回の役者さんの案件なんですけど・・・」
「みのりちゃん、ここで名前出しはNGね!」
「あ、はい、それは分かってます。」
「うん、それならいいけど。」
「あの人、浮気するような方じゃないと思うんですよね・・・」
「え?」
「このお話、絶対何か別の裏があるんじゃないでしょうか。」
みのりちゃんが急に真剣な表情で俺に語り始めた。
「まぁ、イメージは確かにそういう感じとは違うよね。だけど、イメージと真逆な事って多いのよ。世の中って。」
「そうでしょうか・・・」
「仮に裏が有ったにせよ、俺達は言われたことだけをやればいいんだよ。」
「・・・そうですよね。でも、どうしても引っ掛かるんですよねぇ。」
ま、推理小説ファンあるあるなんだろうけど。簡単な案件を事件性に替えたがってる様にしか俺にはみえない。みのりちゃんって、俺が想像してる以上になかなか面倒な子?なのかもしれない。仕事のみならず、こんな推理ヲタクの面倒まで俺に任せるなんて、一体何の罰ゲームなんだよってこの時はマジで思った。
つづく