真夜中の虹 78
そして俺達は広島駅に到着した。先ずは相葉さんに到着したことを電話で伝えた。
「もしもし・・・現地到着しましたよ。で?これから何処に向かえばいいの?」
「あ、お疲れ。ちょうど今長谷川さんから連絡来たところだったんだ。佐伯稔はホテル○○で愛人と落ち合うみたいなんだ。時間がハッキリ分からないから、悪いけど早速二人はホテルに向かって待機して。」
「了解。」
「あ、くれぐれも素性がバレないようにね。みのりちゃんにもニノから必要最低限のルールは説明してあげて。」
「あのさぁ・・・」
「え?何?」
「いや、この話は帰ってからゆっくりね・・・」
「またホテル着いてから連絡して。」
俺は電話を切ると、駅前のビジネスホテルに向かった。フロントで空き部屋を確認してシングルの部屋を一つ確保し、その部屋のキーを受け取ると、そのままみのりちゃんに手渡した。
「はい。みのりちゃんは俺が戻って来るまでここでゆっくり好きな事してて。」
「え?」
「多分、そこまで時間掛かんないと思うよ。長くても3時間くらいかな。」
「あの・・・でも・・・」
「遅くなりそうな時は連絡するからさ。」
「私もご一緒したいです。」
「うん・・・分かるよ。でもさ、みのりちゃんはまだ現場の仕事の事何も教わってないでしょ。」
「私、二宮さんの足手纏いになるようなことは絶対にしませんから。」
「別に足手纏いとかそういうことじゃないんだよ。うーん・・・そうだなぁ。この次の案件は同行させてあげるよ。今回は俺一人でやらせてくれない?」
「あの・・・本当に差し出がましいとは思うんですけど、一つだけ聞いて欲しいんです。」
「ゴメン、あんまり時間ないんだけど。」
「二宮さん、今回の佐伯さんの彼女のお顔ご存知なんでしょうか?」
「えっ・・・し、知らない。」
「それじゃ、尚更私お役に立てるかと・・・」
「えっ???」
確かに・・・俺は佐伯の顔は知ってるけど、相手の女の顔を全く知らない。ってことは、佐伯ほど顔が売れてるヤツが表から堂々と不倫相手とチェックインなどするはずがない。おそらく、女の方にチェックインはさせてから佐伯自身は後から一人で部屋に向かう可能性が高い。となると、女が一人でチェックインする客を片っ端から追わなきゃならなくて、男の俺が一人でそれをやるとなると、ホテル側に不審者と思われて摘まみ出されてしまう可能性だってある。なんとみのりちゃんは、この事に俺よりも先に気付いてたわけだ。
「みのりちゃん、凄いな。あなた十分探偵の素質有るよ。それじゃ、着いて来てくれる?」
「はいっ。」
俺達はタクシーを捕まえて指定の高級ホテルへと向かった。チェックインが始まる20分程前に現地へ到着して、俺とみのりちゃんはあたかもそのホテルの宿泊客を装ってロビーのソファーで佐伯の彼女が現れるのを待ち続けた。それから30分くらい経った辺りで一人の若い女性がフロント前に現れた。
「みのりちゃん、あの人追って貰える?部屋の番号が分かったら直ぐに戻っていいから。」
「了解です。」
「絶対に気付かれない様にね。」
「任せて下さい。」
「うん、それじゃ頼んだよ。」
みのりちゃんはそう言うと、何食わぬ顔でその女性の後を追った。多少心配ではあったけど、俺が想像してる以上に彼女はしっかりしてるから、最初の印象よりも幾分頼りには出来た。俺はみのりちゃんが戻るまで、佐伯が現れないかを注意深く監視した。
「二宮さん、1096号室です。」
「あ、みのりちゃん、気付かれなかった?」
「大丈夫です。一応カメラにも部屋に入る所を収めてきました。」
「ホントに?流石だな。助かるよ。」
そう話していたら、早速佐伯がサングラス姿で俺達の目の前を通り、エレベーターに向かって歩き出した。
「みのりちゃんはここで待ってて!」
「あ、はい。」
俺は慌てて佐伯の後を追った。
つづく