真夜中の虹 80
俺が気を失ってからどれぐらいの時間が経ってたかも分からない。気が付いた時、俺は見知らぬ家の中に居た。
「気が付いたか?」
全く見覚えのない男性が俺に話し掛けてきた。俺は慌てて身体を起こそうとすると、激しい頭痛と寒気が襲って再びその場に倒れそうになった。
「まだ無理をしない方が良い。何しろ昨日の海水温はかなり厳しかったからな。」
「海・・・水?」
「覚えてないのか?」
「はぁ・・・」
「何が有ったかは知らんけど、人生に絶望して身投げするにしては若過ぎんじゃない?」
「えっ・・・」
「本当に覚えてないのか?」
「あの・・・俺、海に飛び込んだの?」
「そうだ。車ごと岸壁から突っ込んだ。そして俺はお前を助けた。」
「そ、そっか・・・」
俺、あのチンピラに殺され掛けたんだ。しかも自殺に見せ掛けて・・・佐伯って恐ろしいヤツなんだ。
「あ、着てたヤツは洗って干しておいたから。」
たった今気付いたけど、俺は真っ裸で布団に寝かされていた。恐らく海に放り出されたわけだからずぶ濡れだったに違いない。この男性に助けられなかったら今頃俺は・・・ゾッとした。
「あの・・・ありがとうございます。」
「え・・・」
「助けて頂いて。」
「あぁ・・・たまたま漁に出てたんだ。」
「漁師さんなんですね?」
「別に漁師ってわけじゃねぇけど。」
「はぁ・・・」
「まっ、生きてたら・・・人と関わってたら色んなこと有るけど親が悲しむ様なことだけはすんな。」
「あ・・・はい。」
自殺なんかじゃなく殺され掛けたんだと説明してたら話が長くなると思って否定することを止めた。それにしても、この人は俺の命の恩人ってわけだ。
「あの、お名前は・・・?」
「人に聞く前に自分から名乗るのが筋じゃない?」
「あ、すみません。僕は二宮です。」
「下は?」
「和也。」
「俺はヒロキ。ま、小汚い家だけど遠慮せずに好きなだけ居るといい。」
「ありがとうございます。」
「少しは腹減っただろう?」
そういえば、あれから何も食べてない。確か新幹線の中で弁当を食べたっきりだ。思い出したら途端に腹の虫が鳴った。
「ハハハッ。待ってろ、直ぐに用意するから。」
俺も手伝うと言いたいところだけど、流石に素っ裸なので布団から出られない。
「す、すみません。出来れば何か着るものをお借り出来ないでしょうか?」
「あー、俺ので良いなら・・・」
そう言って段ボール箱からジャージの上下と下着を取り出して俺に手渡した。
「俺は身体デカいから、お前にはちょっと大きいかもな。」
「いえ、助かります。」
それから俺は借りた物を身に着け、敷いてあった布団を畳んだ。それにしても・・・この家、かなり年季が入ってる。築100年は軽くいってんじゃないの?ってくらい、言っちゃ悪いけどだいぶガタが来てる。木枠の窓から外を覗いてみると、めちゃめちゃ雪が積もってて、周りに住宅一つ見当たらない。
「夕べからずっと降ってんだよ。こんなに積もるのは何年振りってくらいだ。さっ、飯が出来たぞ。大したもんはないけど、我慢して食え。」
「あ、はい。ありがとうございます。」
魚の塩焼きに味噌汁と漬物。確かに豪華な食事とは言えないけど、とにかく半日以上何も食って無かったからめちゃくちゃ美味しく感じた。
「ハハハッ、美味いか?遠慮しないで沢山食えよ。」
「めちゃめちゃ美味いです。」
「えっと、和也だっけ?」
「はい。」
「お前、東京とかか?」
「あ、はい。」
「俺も東京から移住してきたんだ。」
「へぇ。そうなんだ。あ、そうだ、俺の荷物って・・・知りませんよね?」
「あぁー、車の後部座席に置いてあったけど、流石にそこまでは持ち出せなかったな。」
「ですよね・・・」
「何か大事な物でも?」
「あ、いえ、大事って程の物でもないんで。あっ、スマホは?」
「着ていた上着のポケットの中に入ってたから一応は乾かしてるけど、完全に水没しちゃってるからな。恐らく使えないんじゃないか?」
ヒロキさんがタオルの上に乾かされたスマホを指差した。俺は慌てて立ち上がりスマホの生存確認をするけど、当然の事ながらスマホは作動しない。
「あの、ヒロキさん、携帯をお借り出来ないでしょうか?」
「悪いが俺はスマホとか一切持たない主義の人間なんだ。」
「そ、そうですか・・・」
「ご覧の通り、うちにはテレビもラジオも置いて無い。俺も若い時はサラリーマンやってた。時間や人間関係に縛られるのが嫌になってここに移住してきたんだよ。自給自足で一切ストレスも感じなくなった。自分で生きてく楽しみを見出さないとな、和也も。」
ヒロキさんの中で、俺は完全に人生に失望して自殺しに来たヤツって設定になってる。ま、それはそうだろうけど。それにしてもこの人サラリーマンの早期リタイア族だったとは。スマホが使えないのはいくらなんでもマズい。今頃きっと俺の事を探してる。そうだ、智からもきっと連絡が入ってるだろう。智・・・逢いたいよ。
「あの?近くにコンビニとかは有りますかね?」
「こっから一番近いコンビニでも20㎞は有るぞ。しかもこの雪だ。歩いて何時間掛かるか分かんないぞ。」
「えええっ・・・」
「せめて天気が回復するまでは大人しくしといた方がいい。」
はぁ、最悪だ。だけど、この人が居なかったら俺は本当に死んでたかも。命があるだけでも良しとしなければ。今の体力ではきっと20㎞の道のりも俺には無理。ここは焦ってもどうしようもない。せめてこの人が言うように体力と天気が回復するまで待つしかないな。
つづく
こんにちは😊
お久しぶりです☺
今年もよろしくお願いします。
久しぶりのお話ありがとうございます。カズ、優しい人にたすけられて良かった。でもスマホもテレビもないとなるとどうにもなりませんね‼️せめてラジオでもあればいいのですが。。
薬で眠らされて車ごと海に落とされた❓もうちょっと用心しないといけない。みのりちゃんは、気づいてくれてると良いのですが。。
智も連絡出来ないと心配するのでは。なんとか連絡できる方法は無いのでしょうか❓
わたし的にはこの依頼は怪しい🤔。真琴の事と繋がっているのではと思いますが違うかな?
いつも拙いコメントですみません🙇♀️
muchipu様、ご無沙汰しております。今年もどうぞよろしくお願いします。
考察が素晴らしいですね(^^ゞ
実は、このお話は真琴を親元に返すまでの設定で終了させてたはずなんです。
だけど、もうひと展開欲しくなって(笑)過激なストーリーに軌道が変わりつつあります・・・
ご期待に添えられるそうな展開に出来ればですけど、実はこの辺り見切り発車なんです(^-^;
一つ言える事は・・・
ヒロキは豊悦さんのイメージで書いてますwww
コメント有難うございます。