真夜中の虹 83
「な、何の騒ぎ?」
俺は軽トラを自宅前に停めて車から降りた。すると一人の警官が俺に近付いて来て
「あなたは二宮さんで間違いないですね?」
「えっ?あ・・・はい。そうですけど・・・」
そして俺が返事をするなり、別の警官は助手席側のドアを開け
「降りなさい。名前と生年月日は?」
「は?何なんだ?あんたら・・・」
「詳しい事は署で聞かせて貰うから。」
ヒロキさんを無理矢理車から降ろし、パトカーへ乗せようとするから俺は慌ててそれを引き留めた。
「ちょっと!何するんですか!ヒロキさんは病気なんですよ。こうしてる今も具合悪いんです。病人に何するんですか!」
「あ、二宮さんも後ろのパトカーへ・・・」
「は?もう、わけわかんないんだけど。」
「和也、俺なら大丈夫だ。心配するな。」
「ヒロキさん・・・」
もう、本当に一体何がどうなってるのか、俺は状況が掴めず頭の中がパニック状態。そのままパトカーの後部座席に座らされた。
「えー、こちら○○・・・誘拐されていた被害者の二宮和也さんを無事確保、現在容疑者と○○署へ向かっています。」
「ゆ、誘拐?何言ってるの?誤解だって!ヒロキさんは、俺を助けてくれた命の恩人だよ。」
「二宮さん、落ち着いて下さい。こちらもちゃんとした目撃証言が有って動いてるんです。詳しい事は署で説明しますので。」
「は?馬鹿じゃないの?何を証拠に?」
「取り調べれば全て分かる事です。それより、お身内の方がたいそう心配されてますよ。署内でお待ちになって頂いてます。」
「えっ?」
「大野さんという方ですよ。ご存知ですよね?」
「あっ・・・えっ・・・」
そうか、俺と連絡が取れないから智は心配になって、おそらく相葉さんに全容を聞いて警察に捜索願を出したんだ。
「それにしても・・・どうして俺の居所が分かったんですか?」
「GPSです。」
「あっ・・・スマホ?だけど俺のスマホは水没して使えなくなってるけど・・・。」
俺はこういう探偵の仕事をしてるから常にGPSはスマホとは別に性能の良い小型の物を内ポケットに常備させていた。相葉さんがそれを警察に伝えてくれてたんだ。そんなやり取りをしているうちに、俺を乗せたパトカーは警察署に到着した。先に到着したヒロキさんは、警察に両脇を支えられながらフラフラとした足取りで署内へと連行されていく。
「ヒロキさん!」
俺は大声で叫んだけど、ヒロキさんは一度も俺の方を振り返ることなく警察署の中に進んだ。
「二宮さん、こちらへどうぞ。」
ヒロキさんはおそらくそのまま取調室。俺は全く別の部屋に案内された。扉を開けると、そこには智が俺が現れるのを今か今かと首を長くして待っていた。
「か、かず!」
「智・・・」
智は俺の姿を見て駆け寄ると、人目もはばからずに俺の事を力一杯抱き締めた。
「ちょっ、恥ずかしいよ。警察の人が見てるよ。」
「何言ってんだよ。おいらがどんだけ心配したと思ってるの?」
「ご、ごめんなさい。」
「身体は?何処も平気なのか?」
「う、うん。俺は大丈夫だけど・・・」
「お前にもしものことがあったらって・・・」
「俺はこの通り元気だってば。」
「そうか、とにかく無事で良かった。さ、とっとと家に帰ろう。」
「ま、待って。」
「えっ?何だよ?」
「あ、うん、ほら、まだ事情聴取とかが有るだろうし。」
「そんなのカズは被害者なんだから後日でいいよ。」
「そうじゃなくてさ・・・俺も説明聞かないと、何がなんだかわけがわからなくてさ。」
「数日見ないうちにやつれてるじゃん。いいから帰ろう。」
そう言って智は俺の腕を掴んだ。
「ちょっ、お願いだから離して!」
「カズ?」
「あの人は俺の命の恩人なんだ。容疑者なんかじゃない。だから、だから俺が助けないと。」
「カズ・・・」
「あなたは先に戻っててよ。俺はヒロキさんを助けたら直ぐに戻るからさ。」
そう言い終わるのと同時に俺は智に思いっきりビンタされた。
「っつ・・・いてーよ!何するんだよ!」
「カズ、目を覚ませよ。お前は騙されてるんだよ。それより相葉君をはじめどれだけの人がお前の事心配してたと思う?早く帰って皆の事を安心させてあげるのが先に決まってるだろ。後の事は警察に任せとけばいいんだよ。いいから、帰るぞ。」
「ふ、ふざけんなよ!もとはと言えばあなたが全部悪いんだ。同級生か何か知らないけど、こんな危険な仕事を俺達にやらせてさ。俺は殺され掛けたんだよ。ヒロキさんは俺を助けてくれた。あの人が居なかったら俺は今頃こうしてあなたに会う事も出来なかったんだ。俺は誰が何と言おうとあの人を助けるまでは帰らない。」
「カズのわからずや!勝手にしろ!」
智はそう言い残してその部屋を出て行った。智とここまで大喧嘩したのは初めての事だった。
つづく