真夜中の虹 85
相葉さんが連絡が取れなくなるのは困るからと、取り急ぎ簡易のスマホを準備してくれた。それから近くのコンビニのATMから現金を引き出して貸してくれた。その日の夜は相葉さんが泊ってるホテルに一緒に泊って、翌朝相葉さんは仕事が立て込んでるからと東京へ戻って行った。俺はヒロキさんの様子が気になって、その日も警察署を訪れていた。
「あの・・・ヒロキさんは?」
「あっ、二宮さん。佐々木ヒロキは先程釈放されて病院へ搬送されました。」
「えっ?病院?」
「何でも心臓病の持病があるとかで・・・」
「ど、何処の病院?」
「広島市内の○○病院です。」
「釈放ってことは疑いが晴れたってことですよね?」
「あ、はい・・・」
「だから俺言ったのに・・・ヒロキさんにもしものことがあったら、おたくらのせいだからね!」
俺は急いでタクシーを呼び、搬送先の病院へと向かった。タクシーを降りると、真っ先に受付へと向かう。
「あ、あの・・・ここに搬送された佐々木ヒロキさんは?」
「ご親族の方でしょうか?」
「え・・・あ、はい。」
身内じゃないけど、ここはそういうことにした方が早いと思って嘘を付いた。
「現在外科手術中です。待合室の方でお待ち下さい。」
「しゅ、手術・・・」
ヒロキさん、どうか無事で・・・俺は祈るような気持ちで待合室に向かった。待合室には60代位の男性が一人奥の椅子に腰掛けて携帯で誰かと話していた。俺は軽く会釈してその待合室に入った。
「ヒロキさんのオペはまだ4時間は掛かりそうです。広島駅に着いたらタクシー拾って○○病院に向かって下さい。」
えっ?この人もしかしてヒロキさんの身内か?
「あ、あのぉ?」
その人が電話を終えたのを確認し、俺は恐る恐る声を掛けた。
「え・・・何か?」
「失礼ですけど、もしかしてヒロキさんのご親族の方ですか?」
「え、ええ。親族というか・・・まぁ、そうですけど・・・」
「あの、僕は二宮って言います。ヒロキさん、容態はどんな感じなんですか?」
「ここに運ばれた時は意識不明でした。今、心臓のオペを受けてます。」
「助かるんですよね?」
「それは私にも分かりません・・・」
「そ、そんな・・・」
「あの、失礼ですが、あなたはヒロキとは?」
「あ、申し遅れました。ヒロキさんは僕の命の恩人です。」
「もしかして・・・あなたが?暗殺され掛けたっていう・・・」
「はい。」
「警察からある程度は伺ってます。私は佐々木家の顧問弁護士の藤村といいます。」
「べ、弁護士さん?」
顧問弁護士?えっ?
「俺のせいでヒロキさんをややこしい事件に巻き込んでしまって・・・」
「いえ、まだ本人の口から聞かないと分かりませんが、あなたは何も悪くないですよ。ヒロキが勝手にしたことでしょうから。」
「俺、詳しい事はまだ何も知らなくて・・・どうしてヒロキさんの疑いは晴れたんでしょうか?」
「簡単に言えば・・・犯人との繋がりが一切無かったからです。私が出向いた事でそれは証明された。ヒロキは単にあなたを助ける為にわざと犯人に接触したようです。そしてどうやら金で犯人と取引したようです。」
「金?」
「はい、1千万だったようです。」
「い、1千万?」
あんなボロボロの家に住んで自給自足の生活して、今どき携帯も持たないような人が1千万ってどういうこと?警察だってそんな話絶対に信じないと思うけど・・・あ、でも、この人佐々木家の顧問弁護士って言ってたな。え?待って。ヒロキさんって、一体何者?
「驚かれますよね?あんなボロボロの家しか知らないんでしょうから。実は・・・佐々木ヒロキというのは佐々木開発の元取締役社長なんですよ。今は病気をきっかけにご自身で退任なさってますが。」
「ええっ?元社長・・・?」
ヒロキさんって脱サラしてこっちに移住してきたんじゃ無かったの?勿論俺も自分の素性を明かしてはいないけど、ヒロキさんも色々と俺に作り話してたんだ。でも、俺を助けてくれた命の恩人に変わりはないし、重い病気を抱えてる話だって嘘じゃない。ヒロキさんが何者だろうとそんなの俺には関係ないし、とにかく手術が無事成功することを俺は祈るだけだ。
「二宮さん、もう直ぐ身内の人間も到着しますので、どうぞご心配なさらずに・・・お戻りなって結構ですよ。」
「あ、いえ。出来れば俺もここに居させて下さい。お願いします。」
それから数時間後、ようやく長い手術が終わり、ヒロキさんはなんとかその一命を取り留めた。
つづく