真夜中の虹 89

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真夜中の虹 89

 

 

 

それからヒロキさんが天国へ旅立ったのは、およそ1年後の事だった。俺はヒロキさんの最後の1年に寄り添い、俺なりに精一杯出来る限りの事をした。ヒロキさんはそんな俺にコッソリ遺書を残してくれてた。俺はヒロキさんが亡くなった後、妹さんからその手紙を手渡され、ヒロキさんが居なくなったあのボロボロの家の中で一人静かにその手紙を読んだ。

 

親愛なる和也へ

 

俺の様な人間がお前を助けた事で、かえって気を遣わせ、迷惑を掛けてしまった。自給自足の気ままな生活は、俺の幼い頃からの夢で自営業の後を継いでからは所詮夢だと諦めていた。重い病が発覚し、余命僅かと分かってからは、自分が何をやり残しているかを真剣に考えた時、今の生活の事しか浮かばなかった。とはいえ、身内や周りの人間に迷惑を掛ける訳にはいかないから、流石に倒れた時は半ば諦め掛け東京へ戻る事も考えていた。そんな時、和也が一緒に暮らしてくれると聞いて一瞬戸惑ったが、俺は心底嬉しかった。俺みたいな偏屈との暮らしは和也にとってはストレスだっただろう。俺の前では明るく振舞っていたが、時々寂しそうな表情になることも俺は見ていて分かったよ。和也には言わなかったが、お前がうちに来てくれて2か月後くらいに大野という人が俺を訪ねてきた。あいにく和也は買い出しで留守だった。大野さんは和也に逢いに来たのではなく、俺に逢いに来たのだと言った。彼は和也の事を愛していると俺に告げた。そして、そのうえで和也の事を宜しく頼むと、それだけ言って帰って行った。大野さんは、自分がここに来た事は決して和也には言わないで欲しいと言った。男と男の約束だから、俺はそのことを和也には話さなかった。だが、俺がこの世を去ったとして一番心配なのは和也の事だ。俺なんかの為に長い月日を無駄に過ごさせてしまった。和也・・・本当にすまなかった。俺が居なくなったら、真っ先に大野さんの所に戻ってあげてくれ。彼は一生待ってると言っていた。あの真剣な眼差しに嘘はないだろう。どうせ、俺は直ぐに居なくなると思っていたが、あれから1年近くも生きながらえている。大野さんにも随分待たせてしまって申し訳なかったと思ってる。お詫びと言ってはなんだが、奥多摩にある別荘地を二人にプレゼントさせてもらうことにする。後は妹に全て任せてある。遠慮なく妹から権利書などを受け取ってくれ。最後になったが、和也、本当にありがとう。和也のお陰で最高に幸せな人生の最後を迎えられた。どんなに礼を言っても言い尽くせない。この恩は忘れない。和也も、これからは後悔しない自分の人生を好きな人と幸せに歩んで欲しい。自分の気持ちに正直に生きてくれ。それじゃ、俺は一足お先に逝くよ元気でな。   ヒロキより

 

 

俺は手紙を読みながらボロボロ泣いた。ヒロキさんが智の事を知っていて、しかも会っていたなんて。俺に黙ってヒロキさんに挨拶に来るなんて、ズルいよ。

「何だよ、それ・・・カッコ良過ぎじゃん。」

俺は涙を拭って自分の荷物を纏めると、玄関先で誰も居なくなった部屋の中を一通り見渡し、深々と一礼して1年間お世話になった家を出た。そして裏山のハウスでヒロキさんと育ててたナスやトマトを収穫した。農作業なんて、最初は素人の俺にとっては苦痛でしかなかったけど、いつの間にか収穫が日課になってた。けど、これも今日が最後なんだって思うと、ヒロキさんにもう逢えないっていう実感が湧いて来て究極の寂しさに襲われる。だから俺は何も考えないことにした。無感情になることで、心が少しは救われるから。夕方になり陽が傾き掛けてきたので、俺は行く宛ても無く軽トラに乗り込み海岸沿いをゆっくりと走らせた。

 

 

つづく

 

 

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投稿者: 蒼ミモザ

妄想小説が好きで自身でも書いています。 アイドルグループ嵐の大宮コンビが特に好きで、二人をモチーフにした 二次小説が中心のお話を書いています。 ブログを始めて7年目。お話を書き始めて約4年。 妄想小説を書くことが日常になってしまったアラフィフライターです。

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