真夜中の虹 90

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真夜中の虹 90

 

 

ヒロキさんは1週間前に自宅で倒れ意識不明のまま救急搬送されそのまま帰らぬ人となった。その前の日の晩までは特に変わりなく元気だった。余命が短いからと言って病人扱いだけはされたくないという本人の強い要望もあって、普通に畑仕事もしていたし一緒に釣りにも出掛けてた。だから、ヒロキさんが亡くなった今もなんだか夢の中の出来事みたいで正直まだ信じられない。ヒロキさんのお葬式が執り行われて沢山の弔問客が斎場を訪れた。俺は外からそれを見てヒロキさんという人が初めて大きな企業の代表取締役だったんだと認識させられた。俺はヒロキさんの最後の1年に付き添ってはいたけれど、特に身内でも何でもないから葬儀には出なかった。家の中の荷物を整理しているところにヒロキさんの妹さんが喪服姿のまま現れ、ヒロキさんからの遺書と奥多摩リゾート地の権利書と小切手を俺に手渡した。俺は金の為に付き添った訳じゃ無いからと手紙意外は全て突き返した。けれど、それでは死んだヒロキさんが納得しないからって、権利書だけは受け取って欲しいと言われ、俺は仕方なく権利書だけは受け取ることにした。妹さんは俺に感謝の意を伝えると、ヒロキさんの遺骨と共に東京へと帰って行った。

さてと・・・俺も帰らなきゃ・・・

とは言っても、何処へ帰ればいいんだろう。とりあえず実家かな。けど・・・正直今は誰にも逢いたくないかな。だって、多分今は笑えない。俺が笑わないときっと家族も心配するだろう。幾ら家族の前だからって無理しても笑えないものは笑えない。余計な心配掛けたくない。俺は自分がこれから何処へ向かえばいいのか分からなくなってしまってた。海岸付近を軽トラでウロウロして、結局はまたヒロキさんの家の前に戻って来てた。

「ったく、何やってんだよ・・・俺は。」

ヒロキさんは智ともう一度やり直せと言ってる。だけどそんな勝手なことが許されるわけがない。そんな簡単な話じゃないんだよ。俺は事情が何であれ愛する人を1年もほったらかしにした。確かに俺が戻るまで待っててと、お願いすることも出来なかった訳じゃない。でも、それは別の意味でヒロキさんが逝くのを待って貰ってる感じがして不謹慎に思えたから言えなかった。実際どの位待たせることになるかだって分からなかった。そんな先の見えない約束で好きな人を縛り付けておく権利なんて俺には無いと思った。だから今日まで一切の連絡もしなかった。「ヒロキさんが亡くなりました。お待たせしましたね。それじゃ帰ります。」なんて・・・どっちに対しても失礼な話でしょ。だけど、マジで行くとこないんだよな。このヒロキさんの家も近々撤去されると妹さんが言っていたから、ここに一人居残るわけにもいかない。本当にこれからどうしようって頭抱え込んだ時、車のサイドシートの上に自分の手で無造作に置いた奥多摩リゾートの別荘地の権利書の封書がふと俺の目に留まった。

ここに行ってみるか・・・

俺は軽トラから降りてタクシーを呼ぶと、急いで広島駅へと向かった。

 

 

つづく

 

 

 

 

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投稿者: 蒼ミモザ

妄想小説が好きで自身でも書いています。 アイドルグループ嵐の大宮コンビが特に好きで、二人をモチーフにした 二次小説が中心のお話を書いています。 ブログを始めて7年目。お話を書き始めて約4年。 妄想小説を書くことが日常になってしまったアラフィフライターです。

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