真夜中の虹 1
「いらっしゃいませー。お客様ご予約ですか?」
「あ、うん。杏奈ちゃん、いる?」
「えっと、お名前は?」
「相葉・・・だけど。」
「ちょっとお待ちくださいね。呼んできます。杏奈ちゃーん!」
俺と相葉さんは会員制のクラブに来ていた。と言っても、これはれっきとした仕事だ。
「あ、相葉くん!早く!こっち・・・」
金髪ロングヘアのクルクル巻き髪、ピンヒールに薄いピンクのシフォンドレスを身に纏った彼女が今回の依頼人の杏奈さんだ。あ、とは言っても杏奈さんは実は男だ。この店はニューハーフがホステスを務めるいわゆるオカマバー。店内に入った途端、独特の色んな香水の匂いが立ち込めてて、正直こういう所は俺は苦手なんだけど仕事の依頼だからそうも言ってられない。俺達は杏奈さんに案内されて店の奥のボックス席に腰掛けた。杏奈さんは慣れた手つきで水割りを作ると、ピッタリと相葉さんの横に座り耳打ちをしながら俺達が座ってる席の丁度対称面側に位置するボックス席の方を指差した。そこには何でもない当たり前の景色が見える。2人の常連客らしき男二人と派手派手のドレスを身に纏ったホステスが二名。普通に談笑しながら酒を飲んでいる。
「あの・・・人?」
「違う。その隣に居る彼。」
「え?そうなの?」
「何よ?」
「いや・・・てっきりあのイケメンかと思った。」
「ちょっと、それどういう意味よ?まるで彼がイケてないみたいに聞こえるけど。」
「そうじゃないよ。で・・・杏奈ちゃんは何処まで彼の情報掴んでるの?」
「それがね・・・そのイケメンの彼はメンバーさんだから勤務先や本名も分かるんだけど・・・彼は時々一緒に飲みに来る程度だから、お友達だって事くらいしか分からないの。」
「名前も?」
「うん、おのちゃんって呼んでた。」
「小野?」
「たぶん。」
「情報すくなっ」
「だから相葉君にお願いしてるんでしょ。」
「あはは・・・そうだった。ゴメンゴメン。」
「ちゃんと調べてくれるんだよね?」
「勿論、勿論。だぁいじょうぶ!任せてよ。あ、でも何時も言ってると思うけど、情報収集だけだからね。相手に彼女とか奥さんが居たら完全アウト。それは僕らにもどうにもできないからね。」
「分かってる。あっ、ほら、帰っちゃうよ。」
「OK!それじゃ、ニノ、後は頼んだ。」
「任せて。」
俺は会計を済ませて店を出て行く二人の後を追った。
「これからどうする?」
「潤の家で飲む。」
「あのさ・・・」
「ん?何?」
「この際だからハッキリさせたいんだけど。」
「え?」
何話してんだろう?ちょっと声が聞こえないから俺は出来るだけ会話が拾える距離まで近付いていった。
「もうさ、俺達今日で最後にしない?」
「えっ・・・何でだよ?」
「あなた寂しいだけで俺に会ってるでしょ?」
「急にどうしたんだよ?」
「俺が何も気付いて無いとでも思ってるの?」
「馬鹿か!おいらはおまえのことが・・・」
「だったら何で関係を拒むのさ?」
えっ・・・か、関係?しかも何?この変な空気・・・
「そ、それは・・・」
「あなたはあの人への想いを断ち切れる?」
「だからさっきから何言ってんだよ?訳わかんねえ・・・」
「俺はあなたの寂しさを紛らす為の道具じゃないよ。もう、逢うのこれで最後にしよう。」
「潤、飲み過ぎだよ。」
「俺は酔ってなんかいない。」
「わかった、わかった。今夜は帰るよ。だけどこういう話はちゃんと素面の時にしようよ。また連絡するわ・・・」
この二人、ただならぬ雰囲気。もしかすると付き合ってる?え・・・って事は同性愛?うそ??俺が動揺してたら二人は正反対の方向に歩き始めた。俺は慌てて路地に身を隠し、小野ってヤツの後を引き続き追った。
つづく