真夜中の虹 7
自分の中では「これは仕事」と割り切ってるつもり。だけど仕事中も週末を心待ちにしてて、どこかそわそわしてる自分が居たりする。きっと、あの人のせいだ・・・。あの独特の雰囲気っていうか、この俺に警戒心を抱かせないくらい優しい物腰。犬好きに悪い人はいないってだけで俺を飲みにまで誘ってしまう無防備さにはちょっと引くけど、逆に嘘偽りで固めて近寄ってる俺に罪悪感さえ抱かせてるって、何なの?ま、それでもやっぱりこれは仕事だ。今度はもう少し踏み込んで恋愛の話なんかして、出来ればあの潤って人との関係を聞き出さなきゃ。それにしても、家飲みとは言っても俺からしてみると完全にこれは時間外労働だ。本当はプライベートの時間割いてまで仕事する気にはならないんだけど、どういう訳か俺・・・楽しみにしちゃってるんだよな。
そして、大野さんと約束していた週末がやって来た。仕事を終えた俺は一応終電までには帰るつもりで電車を乗り継いで大野さんのマンションへ向かった。
「こんばんは。」
「おっ、思ったより早かったね?」
「今日はもうきっちり定時で終わりましたから。」
「んふふっ、まぁ上がって。」
家の中に入ると、大野さんが用意してくれたデリバリーの食べ物とかお酒が、いつ始めても良いようにバッチリとリビングのテーブルの上にセッティングされていた。
「それじゃぁ、乾杯しよっか・・・」
「うん、かんぱーい。」
俺達はビールで乾杯した。
「あ、ニノでいいですよ。俺、25です。」
「やっぱおいらより全然若いな。」
「そういう大野さんは?」
「もう直ぐ28になる。」
「へえ。もっと若く見えた。」
「ニノももっと若く見えるよ。」
「そ、俺こないだも学生と間違えられたの。表でタバコ吸ってたら近所のオジサンにめっちゃ注意されて。」
「マジで?可愛らしい顔してるもんね。知らなきゃそうなるよな。」
「そうかなぁ。自分では年相応だと思ってるんですけどね。」
そうか・・・28歳ね。嫁さんとかいてもおかしくない年齢ではあるけど、家の中はそういう気配は一切無さそうだ。
「ん?何?」
「あ、いえ。綺麗に片付いてるなぁと思って。」
「あ~・・・んふふっ。今日はニノが来るの分かってたから朝から頑張って片付けたんだ。」
「ほ、ホントに?そんな・・・散らかってても構わないのに。」
まるで初めて彼女を家に呼んだみたいだな。俺はちょっとおかしくなって顔を手で覆ってクスクスと笑ってしまった。
「ニノは趣味とか有る?」
「あ~、ゲームかな・・・」
「へぇ。」
「大野さんは?」
「今は特に無いかな・・・」
「あれ・・・釣りでしょ?」
「え?何で知ってるの?おいら話したっけ?」
「ううん、ほら、あれ・・・魚拓でしょ?それと釣竿・・・」
玄関の所にでかでかと飾られて有るから、聞かなくたって分かってしまう。
「最近は行ってないよ・・・」
何か嫌な事でも思い出したのか?そう言うと大野さんの表情が少し曇った。あ、もしかしてあの人と一緒にやってたとかかな?何とかしてここの真相に辿り着きたいんだけど、なかなかそういう話まで出来ないでいる。もっと飲まなきゃ無理だよな。ところが、俺は実はあんまり酒が強い方じゃなくて、決して忘れてたというわけじゃ無いんだけどついつい大野さんに気を許しちゃって、ご丁寧にも次々にお酌してくれるものだから、どちらかというと俺の方が先に酔っ払ってしまったんだ。
つづく